地獄のハイウェイ

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唾液アミラーゼに見る人類集団の差

 唾液アミラーゼといえば、小学校の理科の授業でも取り上げられるようなポピュラーで古典的な消化酵素だが、遺伝子のコピー数に人種差というか民族集団で差があるという報告が出ていることを知った。

 Perry G.H. et al., "Diet and the evolution of human amylase gene copy number variation". Nature Genetics. 39,1256–1260(2007). doi: 10.1038/ng2123. 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 ネットで検索すると昨年9月にNHKの番組でも紹介していたらしい(番組記事の前半部分)。

www.nhk.or.jp

NHKの番組でナサニエル・ドミニーによる研究として紹介しているが、ドミニーは上記の論文のコレスポンディングオーサー。2007年の論文発表から14年ほどの時が経過しているが、研究成果がポピュラーサイエンスなどに紹介されるまでの時間はこんなもんなのだろう。

 元論文の方を見ると、調査対象になった民族集団として高デンプン食側に日本人があり、低デンプン食側にヤクート人(日本人に容姿が似ているシベリアの民族)があって面白い。高デンプン食側の民族集団にはヨーロッパ系アメリカ人とかタンザニアの狩猟採集民ハッザ族が入っていて、日本人の唾液アミラーゼ遺伝子のコピー数はヤクート人よりもアメリカ人とかハッザ族に近い*1。日本人がアメリカ人(コーカソイド)とかハッザ族(ネグロイド)と分岐したのはモンゴロイドであるヤクート人との分岐よりもずっと古いわけで、日本人とヤクート人の唾液アミラーゼ遺伝子コピーの数の差は、日本人とヤクート人の分岐後に食性の差による自然選択が働いた結果のようだ(論文中でも検証されている)。日本人は恐らく農耕とりわけ稲作開始後に高デンプン食になったと推測されるので、食性の差による進化が結構早いのにはちょっと驚かされる。

 因みに下に示す論文によると口腔内でのデンプン消化は、デンプンを検知するのにも働くようであるから、食品嗜好にも影響していそうである。

 Mandel A.L. et al.,"Individual differences in AMY1 gene copy number, salivary α-amylase levels, and the perception of oral starch". PLOS ONE 5:e13352.(2010). doi.org/10.1371/journal.pone.0013352

journals.plos.org

*1:日本人とアメリカ人やハッザ族の都間の唾液アミラーゼ遺伝子のコピー数の類似は収斂進化によるもののようだ。