地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(3)まとめ

紀元前3世紀にアリスタルコスが宇宙の中心に太陽が位置するとした太陽中心説を唱えたことは広く知られているものの、資料が乏しいため、その学説の詳しい内容についてはよく分かっていない。アリスタルコスの太陽中心説についての情報源としては、時代的にも…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(2)外惑星について

前回の記事「アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について」の続きで、アリスタルコスの太陽中心説における外惑星(火星、木星、土星)について考えてみた。 外惑星は内惑星と違って、太陽の位置による束縛を受けず黄道上で任意の離角をとり、…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について

先日、アリスタルコスの太陽中心説(地動説)について「アリスタルコスの恒星天球」という記事を書いたので、興味を持ってちょっと調べてみたのだが、アリスタルコスが太陽中心説を書いた著作が失われてしまっているため、太陽中心説の具体的な中身について…

アリスタルコスの恒星天球

サモスのアリスタルコス(紀元前310頃~230頃)が太陽を宇宙の中心とする地動説(太陽中心説)を唱えたことは良く知られていて、自分もそれに関連する記事を書いたことがあるが、アリスタルコスの地動説はそれなりの知名度を持ちながらも、その中身について…

外野から見たブッダゴーサを巡る仏教学の論争

仏教学者清水俊史の著作『上座部仏教における聖典論の研究』に対する出版妨害事件を含むアカハラ問題で一部の注目を集めた、パーリ仏教(スリランカの上座部大寺派)の大注釈家ブッダゴーサ(5世紀頃)*1の位置づけを巡る馬場紀寿と清水俊史の論争について…

秋篠宮悠仁親王殿下の論文って研究ミスコンダクトではないのか?

秋篠宮悠仁親王殿下が筆頭著者になった論文が発表されたというニュースがあって、ちょっとびっくりしてしまった。悠仁親王殿下はまだ高校生でいらっしゃるので、学術論文で筆頭著者になるような研究実態があるのだろうかというのは当然の疑問である。 それで…

”空飛ぶクルマ”の方がオスプレイよりも危ないんじゃないの?

昨日、米軍のCV-22オスプレイ屋久島沖で墜落する事故があって、NHKとかのニュースでは大きく取り上げている。オスプレイも初期は事故が割と多かったので、危険性云々が色々といわれるが、初飛行(1989年)から34年、運用開始(2007年)からでも16年も経過し…

”Adapted” vs. "Adapting"

これまでも進化心理学についてあれこれ批判的な意見を言ってきたが、ちょっと調べてみると、自分のような小物があれこれ論ずる以前に、厳しい批判が出ていたことを知った。 進化心理学をどういう研究プログラムとして特徴づけるかであるが、提唱者であるL.コ…

日本産水産物の輸入を禁止するなら日本近海で漁をするな

中国政府がALPS処理水の海洋放出に対して訳の分からない反対運動をしていて困ったものだと思っていたら、日本産水産物の全面的な輸入禁止という嫌がらせとしか思えないような手段に訴えてきた。日本政府は輸入禁止措置の撤回を要求しているようだが、相手が…

リスキリング/ハロートレーニング

ネットのニュースを見ていると、在職者の転職のためのリスキリング支援に経済産業省が乗り出しているそうだ。転職を希望する在職者に対して1人あたり40万を上限に、受講費用などの半額が補助される制度のようだ。たぶん”リスキリングを通じたキャリアアップ…

ジェンダー平等とLGB”T”

LGBT理解増進法案が国会で審議されるそうで、色々と話題になっているようだ。報道によると、自民・公明案、維新・国民案、立憲・共産案などがあってあれこれ議論されるようだが、自分は拙速な採決には否定的である。調べてみると、自民・公明案は「性的指向…

『シン・仮面ライダー』感想

少し前のことになるが、『シン・仮面ライダー』を映画館で観た。自分のようなTV第1作の『仮面ライダー』(1971年4月3日~1973年2月10日放映)直撃世代にとっては、もしかしたらこんな仮面ライダーを見ることになったのかもしれないという“歴史のif”みたいな…

もしかして「無職お断り」か?

知っている人には今更だが、転職しようとしている研究者に研究系の求人情報を紹介する科学技術振興機構が運営するJREC-IN Portalというのがある。次のポストを探すポスドクも当然のこと、求職者側としてこれを利用するわけであるが、求職者ユーザーとして登…

エウドクソスの太陽と月

古代ギリシア天文学の歴史において、空想的なレベルを脱した天体の運行のモデルが提案されたのは、エウドクソス(390 BC頃~337 BC頃、408 BC頃~355 BC頃説もある)による同心天球説球を嚆矢とする。このエウドクソスの同心天球説では、宇宙の中心に地球を…

リアルタイムで見た『怪獣使いと少年』

1971年に放映された『帰ってきたウルトラマン』(以下、『帰マン』)で、主人公の郷秀樹を演じた団時朗(放送当時は団次郎)さんが亡くなった。 『帰マン』は大人気だった1966年の『ウルトラマン』(以下『初代マン』)が再放送(1968年TBS、1969年日テレ、19…

アルキメデスは周転円説を知っていたか?

地動説と天動説の話になると、つい天動説≒周転円説と考えがちだが、よく考えてみると、アルキメデス(紀元前287頃~212頃)が知っていた天動説は周転円説ではない可能性が高い。というのは周転円説の最初の開拓者は、アルキメデスと並ぶ古代ギリシア数学の最…

アルキメデスが地動説支持者だったかもしれない件

古代ギリシアにおいてサモスのアリスタルコス(紀元前310頃~230頃)が太陽を宇宙の中心とする地動説を唱えたことは良く知られている。アリスタルコス自身の著作は『太陽と月の大きさと距離について』*1が伝わるのみで、我々はアリスタルコスの地動説の詳細…

『サイエンス・ファクト  科学的根拠が信頼できない訳』

ガレス・レン&ロードリ・レン『サイエンス・ファクト 科学的根拠が信頼できない訳』(ニュートン新書)を読んだ。 www.newtonpress.co.jp 原題は”The Matter of Facts: Skepticism, Persuasion, and Evidence in Science”。著者は、ガレス(父親)が神経内…

結晶学者は太陽電池の夢を見るか?

結晶学という学問のジャンルがある*1。主としてX線や電子線の回折を利用して結晶性物質の構造について実験的に研究する分野で、固体物理や物質科学からタンパク質といった生体分子の構造決定まで広い分野で基礎的な役割を果たしているため関連する研究者も多…

ランダウはホロドモールのウクライナにいた

2月末からのロシアのウクライナ侵略で、ソ連時代の大飢饉「ホロドモール」が再び注目を受けるようになって、つい先日12月15日には欧州議会がホロドモールをジェノサイドとして認定したという報道があった。農業集団化の失敗で1932年から1933年にソ連各地で大…

さよなら燃える闘魂

今朝、アントニオ猪木が亡くなった。 自分たちの世代にとって、A.猪木はスーパースターというか抜きん出た別格のスポーツヒーローであった。今日の日本におけるいわゆる格闘技興行は猪木がその礎を築いたと言って差し支えはあるまい。 たまたま昨日、嫁さん…

唾液アミラーゼに見る人類集団の差

唾液アミラーゼといえば、小学校の理科の授業でも取り上げられるようなポピュラーで古典的な消化酵素だが、遺伝子のコピー数に人種差というか民族集団で差があるという報告が出ていることを知った。 Perry G.H. et al., "Diet and the evolution of human am…

NHKは他の選挙区の政見放送を流すなや

自分はNHK水戸放送局のエリアなのだが、この4日間ほど朝(6:30頃~7:00前)のNHKTVの参議院選挙の政見放送では、こちらの投票には全く関係のない神奈川県選挙区の政見放送を流していた。調べると茨城県選挙区の政見放送は本日30日の16:00~のが最初のようだ…

ハゲは適応的か?

イギリスで「ハゲ」という罵り言葉がハラスメントと認定されたという記事が出て、少し話題になっている。よく知られているようにハゲ(脱毛症)には性的な偏りがあるので、「ハゲ」という侮蔑は「本質的には性別に関連している」ので、セクシャルハラスメン…

ウクライナ情勢から北方領土返還を考える

ウクライナ東部には、親露派武装勢力による「ドネツク人民共和国」だの「ルガンスク人民共和国」だのがあって、ロシアがそれらを軍事的に支援していていることはよく知られている。それでふと思ったのだが、もしもロシアが北方領土を返還しても全く安心でき…

ウクライナ語とロシア語

ウクライナ情勢が緊迫してきて、ウクライナの言語事情の紹介記事を見掛けたりしてふと思い出したのだが、ウクライナ語とロシア語は良く似た言語というのはウクライナ人からも聞いたことがある。10年以上前だが連携プログラムで1年弱来ていたウクライナ人の院…

読むに値しないんじゃない?『教養としてのロック名曲ベスト100』

今日ちょっと本屋に寄った際に、光文社新書『教養としてのロック名曲ベスト100』(川崎大介・著)をパラパラ見た。自分は広義のメタラーなのでロック通ぶるつもりもないし(CDショップでHR/HMはロック・洋楽と別コーナーだったりすることもままある)、そも…

進化心理学への不信感の理由

進化心理学と呼ばれるものが何となく胡散臭く思えて仕方なくなって10年近くたつのだが、その不信感の理由がようやく自分なりに説明できるようになった。その理由とは進化心理学は正統的な進化論から見て不健全だということだ。 まず最初にはっきりさせてお…

選挙公約の問題点

来る衆議院選挙に向けて、与野党各党があれこれ選挙公約を発表したりしているが、耳触りが良くても実現可能性がほとんどなさそうな公約が掲げられたりしていて、有権者としてはうんざりする。空念仏みたいな選挙公約を並べていたら信用を失ってしまう危険性…

自民党総裁選の支持率調査のサンプリングバイアスは?

今回の自民党の総裁選について、各種マスコミによるどの候補者の支持率が高いのかといった調査が色々と出てきているが、ちょっと疑問を持ったので書いておく。 自民党の総裁選なので、投票権は党員に限られるので普通の世論調査はあまり意味がないと思う。も…