地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

三木那由他『会話を哲学する』感想

三木那由他『会話を哲学するーコミュニケーションとマニピュレーション』(光文社新書)を読んだ。会話を情報伝達的なもの(本書では”バケツリレー式コミュニケーション観”と呼ばれる)としてではなく、会話を交わす者同士の「約束事の形成」による共同的コ…

国プロの成果が上がりにくいことについて

ここで話題にしようとしている「国プロ」とは、政府の資金を使って大学や民間を巻き込んで行われる大型の研究開発プロジェクト*1のことである。もちろん成果を上げているケースもあるが、集中的な開発投資が行われているはずなのに成果が十分に上がったのか…

R.I.P. Ozzy

オジー・オズボーンが亡くなった。7月5日に豪華ゲストを集めて大規模な引退ライヴを行ったばかりなので、びっくりした。メタル界を牽引した功績は偉大なものだったと思う。R.I.P.

烏谷昌幸『となりの陰謀論』を読んで

2021年1月のトランプ支持者による米連邦議会襲撃事件以来、何かと話題になっている陰謀論についてコンパクトにまとめた良書。著者自身がケネディ暗殺事件に関する陰謀論を受け入れていたことを足掛かりに誰しもが多かれ少なかれ陰謀論に染まる可能性を前提と…

スーパーホープ坂井優太

昨日はエディオンアリーナ大阪で久し振りのボクシング観戦。お目当てはスーパーホープ坂井優太と昨年の西日本新人王の宮下椋至が対戦する日本ユースバンタム級王座決定戦。坂井が優位と予想はしていたが、スピードで上回る坂井がポンポンとジャブを当て、ま…

おっぱいの性的魅力が本能に根差しているという話について

はてなブックマークでちょっと話題になっている『「男性が女性の胸に惹かれるのは本能か?」胸を露出して暮らす部族の男性を調査した研究 』という記事がある。 nazology.kusuguru.co.jp 凄くまじめな話をすると、ヒト雌の発達した乳房は、シカの雄の角やク…

ディズニー作品の品質低下をもたらしているかも知れないもの

この春に公開されたディズニーの実写版『白雪姫』が興行的に苦戦というか大コケだそうだ。1937年に公開されたディズニーの長編アニメ第1作であるアニメ版『白雪姫』が、アニメーション映画史に画期をなす古典であったので、それとの対比もあって今回の実写版…

さよならビッグ・ジョージ

ジョージ・フォアマンが亡くなった。以前にも書いたが、自分が意識してボクシングのTV放送を見た最初の試合が、フォアマンとノートンの世界戦で、その時以来ずっと好きだったボクサーなので、やはり悲しい。”キンシャサの奇跡”でアリの引き立て役になってし…

宇宙の核酸塩基

小惑星ベンヌからNASAの探査機が持ち帰ったサンプルから、5種類の核酸塩基がすべて検出されたというニュースが出て、多少話題になっているようだ。サンプルの由来の故に、地球上の生物由来の可能性はないと考えられるので、地球上の生命の起源を考える上で貴…

エカントを使って周転円モデルの精度を上げる(火星の場合)

古代ギリシア天文学の集大成者プトレマイオスが、その著書『アルマゲスト』において惑星の運動を精度良く表現するために、導円の中心に対して地球と対称な位置に仮想的な等速円運動の回転中心であるエカントを導入したことはよく知られている。先日の記事「…

同心天球モデルと周転円モデルの比較(金星の場合)

先日の記事「太陽の第一変則性についての同心天球説の挑戦」では、太陽に関しては同心天球モデルでも離心円モデルと同等レベルの説明が可能だと述べたが、惑星運動に関しては同心天球モデルが周転円モデルの水準に到達することは困難で、そのことを理解する…

太陽の第一変則性についての同心天球説の挑戦

先日の記事「ヒッパルコスの離心円の真価:均時差の定量的評価」の続きになるが、太陽の年周運動が一様ではなく四季の長さが異なるという第一変則性の説明を試みた最初のギリシア天文学者はヒッパルコスではない。ヒッパルコスに先立つこと約200年前、同心天…

ヒッパルコスの離心円の真価:均時差の定量的評価

離心円について書いた先日の「アポロニオスの周転円説と離心円説」でも触れたが、ヒッパルコス(紀元前190頃~120頃)が、太陽の年周運動が一様ではなく季節変化を示すこと(第一変則性)を説明するために離心円を使ったことはよく知られている。そのことは…

S.シェイピン『科学革命とは何だったのか』

S.シェイピン『科学革命とは何だったのか』を読んだ。これまでも17世紀科学革命に関する書物はいくつか読んできて、占星術や錬金術との関わり合いとかそういうのを強調した書物も読んだりしてそれなりに知識があったので、内容的な新鮮味はあまり感じられな…

アポロニオスの周転円説と離心円説

古代ギリシアにおける天文学理論の歴史を大筋で言うと、最初にエウドクソス*1の同心天球説が登場し、その数世代後にアリスタルコス*2の太陽中心説が現れて、更にその後に周転円説(導円-周転円説)が登場して主流になり、ヒッパルコス*3が精度の高い観測デ…

携帯型非常用浄水器で気になったこと

8月8日に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されてからは、関西でも各種の防災グッズの売れ行きが上がっているようである。自分も気になって、せめて飲料水ぐらいは備蓄しなければと、長期保存水を購入したりしている。飲料水を最低でも3日分、3…

「袴田事件」再審無罪判決

昨日、静岡地裁で「袴田事件」の再審で、袴田さんに対する無罪判決が出た。自分も以前から、再審無罪を願っていたのでホッとしている。再審開始決定からでも10年掛かっていて、あまりにも時間が掛かりすぎだと思うが、今はただ一刻も早く袴田さんの無罪が確…

政治家もエフォート率を出せばいいじゃん

自民党の総裁選で立候補を表明した高市早苗が記者会見で、首相や閣僚の国家公務員としての給与を廃止する考えを示したそうだ。まあ国会議員は129.4万円の月額歳費*1を受けているから、閣僚としての給与はいらないということなのかもしれないが、少しピントが…

アーガマからニカーヤへ

仏教経典に興味を持っている人にとっては周知の事実であるが、経蔵(パーリ:Suttapiṭaka、サンスクリット:Sūtrapiṭaka)に含まれる集成の名称は、漢訳仏典では阿含*1で、パーリ仏典ではニカーヤ*2となっている。阿含はアーガマ(āgama)の音写で、サンスク…

植原亮『自然主義入門』感想

植原亮『自然主義入門:知識・道徳・人間本性をめぐる現代哲学ツアー』(勁草書房)を読んだ。哲学を自然科学とを一体のものとしてとらえようとするクワインに発する現代の哲学上の自然主義に関する紹介をしたもの。非常に上手く纏められていて哲学書の中で…

自民党総裁選候補者達は中国軍機の領空侵犯問題について何を語るのか?

昨日、中国軍機が長崎県の男女群島沖の日本領空を侵犯したという事件があった。中国軍は正確には人民解放軍であって中国政府の管理下ではなく中国共産党の中央軍事委員会*1の指揮下にある共産党の軍隊である。人民解放軍は国務院の機関である国防部の指揮・…

今井むつみ『英語独習法』感想

認知科学に基づいて合理的な学習法を提案するという触れ込みに釣られて、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)を購入したが、自分には向いていないと思った。 自分はどちらかと言えば英語が不得意で、きちんと調べたわけではないが多分CEFR*1のB1に相当する…

事業仕分けの記憶

東京都知事選に蓮舫が立候補した関係なのか、蓮舫について書いた記事の閲覧回数が増えているようだ。それでちょっとネットを見ていたら、2009年11月の行政刷新会議による事業仕分けの際に蓮舫が言った「2位じゃダメなんですか」発言が取りざたされているよう…

『セクシー田中さん』問題について思うこと

昨年日本テレビ系列で放送されたTVドラマ『セクシー田中さん』の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが自死に追い込まれた事件で、日本テレビと小学館がそれぞれ調査報告書を出した。 これまでの報道でも、脚本に不満を持った原作者が手直しを要求したり、全10…

リー・マッキンタイア『「科学的に正しい」とは何か』

リー・マッキンタイア『「科学的に正しい」とは何か』(ニュートン新書)を読んだ。 www.newtonpress.co.jp 原題は”The Scientific Attitude”。常温核融合のような病的科学のケースや逸脱としての研究不正や地球温暖化否定論のような否定主義、疑似科学など…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(3)まとめ

紀元前3世紀にアリスタルコスが宇宙の中心に太陽が位置するとした太陽中心説を唱えたことは広く知られているものの、資料が乏しいため、その学説の詳しい内容についてはよく分かっていない。アリスタルコスの太陽中心説についての情報源としては、時代的にも…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(2)外惑星について

前回の記事「アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について」の続きで、アリスタルコスの太陽中心説における外惑星(火星、木星、土星)について考えてみた。 外惑星は内惑星と違って、太陽の位置による束縛を受けず黄道上で任意の離角をとり、…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について

先日、アリスタルコスの太陽中心説(地動説)について「アリスタルコスの恒星天球」という記事を書いたので、興味を持ってちょっと調べてみたのだが、アリスタルコスが太陽中心説を書いた著作が失われてしまっているため、太陽中心説の具体的な中身について…

アリスタルコスの恒星天球

サモスのアリスタルコス(紀元前310頃~230頃)が太陽を宇宙の中心とする地動説(太陽中心説)を唱えたことは良く知られていて、自分もそれに関連する記事を書いたことがあるが、アリスタルコスの地動説はそれなりの知名度を持ちながらも、その中身について…

外野から見たブッダゴーサを巡る仏教学の論争

仏教学者清水俊史の著作『上座部仏教における聖典論の研究』に対する出版妨害事件を含むアカハラ問題で一部の注目を集めた、パーリ仏教(スリランカの上座部大寺派)の大注釈家ブッダゴーサ(5世紀頃)*1の位置づけを巡る馬場紀寿と清水俊史の論争について…