この春に公開されたディズニーの実写版『白雪姫』が興行的に苦戦というか大コケだそうだ。1937年に公開されたディズニーの長編アニメ第1作であるアニメ版『白雪姫』が、アニメーション映画史に画期をなす古典であったので、それとの対比もあって今回の実写版の興行的失敗は色々と論評されている。自分は今回の実写版『白雪姫』を見たわけではないので、内容的な論評はできないのであるが、一部で言われている主演女優(レイチェル・ゼグラー)の言動とか、行き過ぎたポリコレ的改変であるとか、そういうものも興行的失敗に影響しているのだろうとは想像できる。ただそういうものだけが失敗の原因とは言えないような気がする。
ディズニーの長編アニメ第1作は『白雪姫』であるが、長編アニメ第2作は1940年に公開された『ピノキオ』である。ディズニーは既に『ピノキオ』も実写化していて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキスを監督に迎え、2022年9月からDisney+で配信している*1。ところがディズニーの実写版『ピノキオ』の配信開始からほどなくして2022年12月にはNetflixでディズニー・アニメのリメイクではない『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』が配信され*2、そちらが非常に高い評価を受けたため、ディズニーの実写版『ピノキオ』の方は配信されたことも世間からは忘れられているような印象さえある。
さて、この実写版『ピノキオ』であるが、ものすごく評価が低いのである。映画批評サイト”Rotten Tomatoes”の批評家レヴュースコアはなんと27%の低評価。評判が悪い今回の実写版『白雪姫』でも40%はあるので、それと比べても圧倒的低評価で、批評家からは駄作の烙印を押されてしまっている。駄作になった原因は色々とあるのだろうが、元の原作の児童文学『ピノッキオの冒険』の物語がイタリアを舞台にしているため、いわゆるポリコレ的改変はそれほど多くはなく*3、ポリコレ的改変が駄作になった主たる原因ではなさそうである。
実写版『ピノキオ』は予告の映像を見てもらえばわかるが、実写版と言いながら主人公のピノキオやコオロギは3DCGで表現され、人間が演じる実写パートと合成されている。ここで自分が気になったのはピノキオの容姿がアニメ版をかなり忠実に再現している点である*4。
良く知られていることだがディズニーは映画に合わせた様々なキャラクタービジネスの展開を行っているので、知財の管理に熱心なのだろう。『ピノキオ』や『白雪姫』のような童話の原作がありディズニー作品自体が起原ではないような物語の場合は、ディズニー作品としてのアイデンティティをキャラクターデザインに求めているのではないかと考えられないことはない*5。何かと知財保護に五月蝿いディズニーのことなので、ピノキオのキャラクターデザインの変更をOKしなかったのかもしれないのではないか、とも勘繰ってしまう。
このようなことが背景にあったりすると、ビジネスサイドがディズニー作品としてのアイデンティティを守ろうとすればするほど、監督なりのクリエイターサイドの自由を奪いに様々な干渉してくるだろうということは想像に難くない。そして、そうなってくると出来上がった作品は、監督の作家性や物語の深みを疎かにした継ぎはぎ細工のようなものになってしまいがちなのはある意味で想定範囲内とも言えるかもしれない。
ついでに”Rotten Tomatoes”の批評家レヴュースコア96%という『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の予告を貼っておくが、ディズニー作品とはかけ離れた造形で、こちらは作家性が存分に発揮できたであろうことは確かなようである。