地獄のハイウェイ

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鉄腕アトム「地上最大のロボット」を読み直す

以前にも触れたことがあるが「鉄腕アトム」の最も人気のある話というと
浦沢直樹のリメーク「PLUTO」でも話題になった
「地上最大のロボット」(連載時は「史上最大のロボット」1964~65年)だろう。
自分は連載にリアルタイムで触れた世代ではないけれど
子供の頃、親戚の家で光文社カッパコミックス版を読んで
一番面白く思ったのが「地上最大のロボット」であった。

さて、アトムは本質的にエンターテインメント作品であって
そこから我々が様々なインスピレーションを得ることができたとしても
深い思索に基づくものではないだろうと思う。
だから大人になって読むと作品の粗も見えてくるので
それをちょっと書いてみようと思う。

話のあらすじは良く知られているとは思うが念の為に書くと、
最強のロボットを目指して作られた100万馬力のプルートゥが、
アトムを含む世界最高の7人のロボットに闘いを挑み
最後に残ったアトム(途中で100万馬力にパワーアップ)との決戦前に、
火山の噴火を防ぐアトムを手伝うことで良心と自我に目覚め、
主人の命令に反してアトムと闘うことを拒否するが
200万馬力のデク人形ボラーに圧倒されて倒されて自爆するというものだ。

作品の粗だが、そもそも「最強のロボット」という設定だが
話の中ではロボット・バトルのみを考慮されているのに
登場ロボットがバトル用に作られたとは限らないという点が非常にいびつだ。
7人のロボットのうち格闘用もしくは戦闘用に作られたと思われるのは
ロボット力士(トルコ相撲?)のブランドーと
(記憶ではカッパコミックス版では50万馬力だったように思う)
戦士であるヘラクレスくらいで(ロボット刑事のゲジヒトは微妙)
エプシロンにいたっては保父ロボットである。
これは格闘技世界一を決めるというのに
出てくる相手が力持ちだが素人という状態である。
もしもそういう格闘マンガだったら、はっきり言って興醒めだろう。

一方で鉄腕アトムではアトラス編などに出てくるロボッティングという
プロレスをモデルにしたようなロボット格闘技の大会が描かれているが
それとの関係はどうなっているのだろうか?
「地上最大のロボット」ではロボッティング選手権は触れられていない。
(2003年版アニメではヘラクレスがロボッティング・チャンピオンになっているらしい)
手塚は格闘シーンはあまり得意でないようでロボッティングの描写は迫力がなく
ボッティング世界一を目指すというストーリーでは
それほど人気は出なかったのではないだろうか。

「地上最大のロボット」編が人気あったのも
結局のところは高性能ロボット同士のバトルが描かれていたからで、
自我に目覚め与えられた使命の空しさを悟るものの空しく世を去るという
文芸風の青春映画にありがちな悲劇的ストーリーだけでは
これほどの人気は出なかったかもしれない。
青春悲劇風の味付けがあるからこそ記憶に残ったとはいえ
むしろ「鉄腕アトム」の人気面のライバルだった
鉄人28号」のロボット・バトルの人気に
対抗すべく書かれた作品とみなすべきではないだろうか。