地獄のハイウェイ

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リー・マッキンタイア『「科学的に正しい」とは何か』

 リー・マッキンタイア『「科学的に正しい」とは何か』(ニュートン新書)を読んだ。

www.newtonpress.co.jp

原題は”The Scientific Attitude”。常温核融合のような病的科学のケースや逸脱としての研究不正や地球温暖化否定論のような否定主義、疑似科学などを対象に、科学的態度の欠如について論じ、また医学が科学的態度を受け入れることで近代化されていく過程を論じるなど、自分とは関心がかなり重なっていて興味深くて一気に読んだ。

 著者は科学哲学者であるが、科学を特徴づけるものは方法論ではなく、「経験的根拠を大切にし、新たな根拠に照らして自分の理論を変える意思を持つ」という科学的態度にある、とする。著者自身が明言しているように科学的態度を認識的な美徳として考える徳倫理学あるいは徳認識論に近いアプローチだが、科学者個人ではなく科学者集団のふるまいに焦点を当てている。古典的なマートンのノルムのような「かくあるべし」のような理想的な規範についての議論というよりも、どちらかというと心構えが欠けている者がいても研究者集団の規範として機能することで科学が健全な科学たり得ているとする記述的な側面が強い。

 この本を読む上では、ポパー反証主義やクーンのパラダイム論についての多少の科学哲学の知識があった方が読みやすいとは思うが、それがなくても読むのに苦労はしないと思う。科学哲学の学説の細かいことは説明していないので科学哲学についての教科書にはできないかもしれないが、科学についての見通しを得るのにはそういう科学哲学の教科書を読むよりもずっと役に立つと思う。