地獄のハイウェイ

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名古屋高裁の下山保男裁判長を批判する

名張毒ぶどう酒殺人事件について名古屋高裁の下山保男裁判長が
再審開始を取り消す決定をしたとの報道があった。
決定文の全文を見たわけではないが、
再審開始に異議を申し立てていた検察側が主張していない推論をしたそうだ。
幾つかの報道を見たところ
事件直後の鑑定(ペーパークロマトグラフ)で、
使用されたとする毒物ニッカリンTピロリン酸テトラエチル剤、以下テトラEPPとする)の
副生成物ピロリン酸トリエチル(以下トリEPP)が検出されていなかったので
弁護側が毒物が違う(ニッカリンT以外)と主張していたのに対して
検察側が事件当時の前処理であるエーテル抽出では検出できないとする争点に対して
下山保男は「副生成物は加水分解で消失していた」と推論したそうだ。
はっきり言ってこれは珍判断だろう。
気になったので最高裁の再審決定全文を探してみたところ以下のサイトで見つかった。
http://tamutamu2011.kuronowish.com/nabarijikennsaikousaiketei.htm
その中を見ていると報道と食い違う点があるが
トリEPPはペークロでは発色が弱いとかそういうことが争点で
さらなる加水分解物リン酸ジエチル(以下DEP)は検出されているのに
トリEPPが検出されないのはどうしたことかいうことが争点であったことが分る。
更に興味深いことに
ニッカリンTを12%エタノール含有pH3の重水中に溶解して2日間保管した実験では

テトラEPP:26.8→18.6(モル比という決定文の表記はモルのことか?)
トリEPP:13.7→12.9
DEP:19.6→30.9(テトラEPPの分解で増えている)

とテトラEPPの残存率69.4%に対してトリEPPの残存率94.2%という結果で
トリEPPの方が加水分解を受けにくいことが分る。
更に発色効率に関する争点でも
検察側がトリEPPが過塩素酸による加水分解を受けにくいと主張していることがわかる。

もちろん加水分解の進行は条件で変わるが、
検察側がトリEPPが加水分解でほとんど無くなったなんて主張しないのは
ある意味、理性が保たれているからだろう。

下山保男が検察も主張しないことを加えた「推論」なるものは
はっきり言って白を黒、黒を白と判断したとしか思われないデタラメだ。
一体どこからトリEPPが加水分解してほとんど残らなかったと判断をしたのか?
こんなデタラメな推論をする裁判官は罷免すべきだと思う。