地獄のハイウェイ

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言語で表現できることの限界

谷崎潤一郎の『文章読本』を読んだ。
ハウツーものではなく文章道の心得帳といった趣きで、
大文豪の美意識がとても面白かったが、
他人に分らせる文章のコツとして
「言葉や文字で表現できることと出来ないこととの限界を知り、その限界内に止まること」
(中公文庫版p.33、原文は太字)
と書いていたことに個人的には別の感慨を覚えた。
この文からヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の末尾の文、
「語りえぬものについては、沈黙しなければならない。」
を思い出したのだ。
谷崎とヴィトゲンシュタインとでは論じている文脈が全く異なるので、
単なる偶然の類似とも言えるが、
言語表現のための技法を追求していただろう谷崎だけに
「表現できることの限界」というのも
決して安易に言われたなものではないだろうという気がする。
どちらかと言えば他人の空にではなく
収斂進化のような気がしないでもない。
そう思うとヴィトゲンシュタインの言葉も
むやみに神格化しないで済みそうな気がしてきた。