読書
三木那由他『会話を哲学するーコミュニケーションとマニピュレーション』(光文社新書)を読んだ。会話を情報伝達的なもの(本書では”バケツリレー式コミュニケーション観”と呼ばれる)としてではなく、会話を交わす者同士の「約束事の形成」による共同的コ…
2021年1月のトランプ支持者による米連邦議会襲撃事件以来、何かと話題になっている陰謀論についてコンパクトにまとめた良書。著者自身がケネディ暗殺事件に関する陰謀論を受け入れていたことを足掛かりに誰しもが多かれ少なかれ陰謀論に染まる可能性を前提と…
S.シェイピン『科学革命とは何だったのか』を読んだ。これまでも17世紀科学革命に関する書物はいくつか読んできて、占星術や錬金術との関わり合いとかそういうのを強調した書物も読んだりしてそれなりに知識があったので、内容的な新鮮味はあまり感じられな…
植原亮『自然主義入門:知識・道徳・人間本性をめぐる現代哲学ツアー』(勁草書房)を読んだ。哲学を自然科学とを一体のものとしてとらえようとするクワインに発する現代の哲学上の自然主義に関する紹介をしたもの。非常に上手く纏められていて哲学書の中で…
認知科学に基づいて合理的な学習法を提案するという触れ込みに釣られて、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)を購入したが、自分には向いていないと思った。 自分はどちらかと言えば英語が不得意で、きちんと調べたわけではないが多分CEFR*1のB1に相当する…
リー・マッキンタイア『「科学的に正しい」とは何か』(ニュートン新書)を読んだ。 www.newtonpress.co.jp 原題は”The Scientific Attitude”。常温核融合のような病的科学のケースや逸脱としての研究不正や地球温暖化否定論のような否定主義、疑似科学など…
ガレス・レン&ロードリ・レン『サイエンス・ファクト 科学的根拠が信頼できない訳』(ニュートン新書)を読んだ。 www.newtonpress.co.jp 原題は”The Matter of Facts: Skepticism, Persuasion, and Evidence in Science”。著者は、ガレス(父親)が神経内…
自分は学生の頃から科学哲学に関心があって色々と本も読んできた。 伊勢田哲治の「科学哲学日本語ブックガイド」http://tiseda.sakura.ne.jp/PofSbookguide.html で紹介されている中の25冊は読んだことがある。 (読んだからと言って十分に理解しているとま…
伊勢田哲治の『科学哲学の源流をたどる―研究伝統の百年史』を読んだ。出版元(ミネルヴァ書房)のPR誌に書いた軽い読み物をまとめたものだそうだ。同著者の『疑似科学と科学の哲学』が面白かったので期待して読んだが期待外れだった。学術書でもなければ教科…
最近出版された馬場紀寿『初期仏教』(岩波新書)を読んだ。最新の研究成果を反映したという触れ込みで、それはそうなんだろうけれど今までの入門書、例えば同じ岩波新書なら三枝充悳『仏教入門』とかと比べてどのように新しいのかが素人には分かりにくい。…
原題は"Merchants of Doubt"(疑念の商人)。 邦題よりも原題の方が内容を良く表しているが、 タバコの発癌性や地球環境問題などの分野で 主流の科学的知見に対する疑念を広める活動を積極的に行った 何人かの元は科学者であった人達についての本だ。 一番の…
B.ゴールドエイカー『デタラメ健康科学』(原題:Bad Science)を読んだ。ホメオパシーのような代替療法から製薬会社のインチキや、マス・メディアの報道の問題など広く取り上げた一般向けの書籍。いわゆるニセ科学問題を考える上で非常に良いと思った。 ホ…
昨年ノーベル物理学賞を受賞した著者が2013年に出した語り下ろしの回顧録。 青色ダイオード開発の軌跡はもちろん非常に興味深く読めたが、 京大卒業後、神戸工業入社、名大助手~助教授、松下電器研究所を経て名大教授と 企業と大学の間を行き来しながらの研…
垂水雄二『科学はなぜ誤解されるのか』(平凡社新書)を読んだ。 タイトルに掲げられた問題についてはそれほど掘り下げられているわけではなかった。 著者はドーキンスなどの進化論関係の翻訳などで知られる科学ライターなので 第四章「誤解されるダーウィン…
いわゆるバイオ系の研究現場の問題点を指摘した書籍だが、 正直言うと色々な意味で違和感を覚えた。 著者はピペットを捨てたと自称しているが東大大学院中退後に 神戸大医学部に学士入学し医師免許に加え学位も取得し、 現在は病理医とは言っても近大で職を…
STAP事件で研究不正について注目が集まったこともあって W.ブロード&N.ウェイド『背信の科学者たち』が再刊されるようだ http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784062190954.html http://www.amazon.co.jp/dp/4062190958/ この本については以前にブルーバ…
ごく普通の人がする嘘やごまかしといった不正についてのポピュラー読み物。 行動経済学というよりも社会心理学の範疇の話題が中心だと思うが楽しく読めた。 ごまかしが行われる頻度はそれによる利益の大きさとか あるいは見つかる危険の大きさは あまり関係…
影浦峡『信頼の条件-原発事故をめぐることば』を読んだ。 福島の原発事故後の科学者などの不適切な発言を巡って書かれたもの。 探求者としての「科学者」と権威主義的「専門家」の区別とか それなりに興味深い視点はあるものの 自分には「きれいごと」過ぎ…
牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』を読んだ。 読む前に思っていたのとは、ちょっと違っていた。 原発推進側の当事者(政府や電力会社)のみならず、 原発とは直接的な利害関係のない科学者の少なくない部分が 使えるはずの「科学的方法」を使用しないで、 …
谷崎潤一郎の『文章読本』を読んだ。 ハウツーものではなく文章道の心得帳といった趣きで、 大文豪の美意識がとても面白かったが、 他人に分らせる文章のコツとして 「言葉や文字で表現できることと出来ないこととの限界を知り、その限界内に止まること」 (…
家族が佐々木圭一『伝え方が9割』という本を買ってきた。 ベストセラーのハウツーものらしい。 内容は読んでいないので論評はできないのだが、 著者紹介を読んでちょっと噴出しそうになった。 曰く「郷ひろみ、Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位…
中学や高校での教室内の人間集団の上下関係について、アンケートとインタービューを基に論じた書物。東大での修論を基に加筆修正したものということなので、拙い部分があるのは仕方がないとは思うが、著者はアカデミック・ポジションを目指しているそうなの…
中川保雄『増補・放射線被曝の歴史』を読んだ。 島園進が激賞していたが、自分はそれほどのものとは思わなかった。 被曝を強制する側と強制される側という2項対立図式によって ICRPなどの放射線防護基準の設定に関する通史を概観したといった感じ。 このため…
芥川賞受賞作である「道化師の蝶」を読んだ。 円城作品は「Self-Reference ENGINE」、「Boy's Surface」に続いて3つ目。 「Self-Reference ENGINE」等がナンセンスSF風味だったのが、 この「道化師の蝶」はミステリー風味のファンタジーに仕上げた感じ。 語…
先日芥川賞を受賞したポストポスドク作家である円城塔のデビュー作が 文庫になっていたので買ってみたが、結構面白かった。 「砂の嵐に隠されたハノイの塔」(アニメ「バビル2世」主題歌のもじり)とかの くすっとするような小ネタがあったりするので、 SF好…
菊池俊郎「院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド」を読んだ。 若手に向けたアカデミアで研究者として生き残るための助言ということで 内容そのものは割と常識的なもので読んで損ということはない。 しかし本書のp.20のFig.1-05という表の博士課程…
学術書ではないので、カルチャーセンターの講演くらいに思えば腹は立たないのであるが、帯の宣伝文句「「自然」と"nature"はどう違うか?比較科学論への招待」、に興味を惹かれて読んでみたものの杜撰な論証にがっかりした。 本書では、思考や世界観などは母…
原発ジプシーという言葉が、一般社会に知られるようになったのは、このノンフィクションによる。著者が臨時雇いの下請け労働者として美浜、福島第一原発、敦賀原発で実際に就労した体験記。初版は1979年だが、自分が読んだのは今年になって現代書館から出た…
ちくま新書の斎藤成也「ダーウィン入門」を読んだ。 著者は日本進化学会設立発起人というか中心人物の一人で、 現在は会長(2010-2011年)を務める、 日本を代表する進化生物学者の一人だ。 これまで出版されたダーウィン紹介本の多くは、 いささか贔屓の引…
久米三四郎の「科学としての反原発」を読んだ。 反原発運動の理論的指導者であった著者の没後に出版されたもの。 内容はスリーマイルとチェルノブイリの原発事故の解説と 著者が住民側原告の特別補佐人として関った伊方原発と高速増殖炉もんじゅの両訴訟、 …