地獄のハイウェイ

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ある偽りのジレンマ

クリティカル・シンキング分野で
「偽りのジレンマ」とか「誤った二分法」と呼ばれる
誤謬論法というか間違った思考パターンがあることは多くの人がご存知だろう。
これは本来、多様な選択肢がありうるはずの複雑な問題について
(大抵の場合極端な)2つの選択肢しかないように論じて選択を迫る論法である。
カルト宗教が「自分達の教えを聞いて救われるか、教えを聞かずに地獄に落ちるか」と
迫るのもこの偽りのジレンマを利用している。
例えば、布教の際にターゲットとなった人物が
自分の将来に希望を持てていなかったり、
社会の堕落に不快感を持っていたりすると、
「現状を肯定するのか、それとも自分達の教団とともに運命や社会を変革するのか?」と
2つの選択肢しかないように偽り、
片方(現状肯定)はもともとネガティブな選択肢なので、
残りの方を選ばせるなんていうのが典型である。

ここで話題にしたいのはそういうカルト宗教とかの話ではなく
科学界で流通する"publish or perish"(論文を書くか、さもなくば滅亡か)という
格言というか警句である。
早く論文を書けという圧力を掛ける時に使われるし、
また研究者評価の文脈でも(やや自嘲気味に)使われることも多い。
ちょっとクリティカル・シンキングをすればわかるが、
実はこれは偽りのジレンマである。
何故かと言うと
任期制職員やポスドクにとってあこがれのテニュア(終身在職権)があるからである。

テニュア制度については文部科学省のページ
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/008/04010801/002.htm
 が参考になる。

警句には警句としての機能があるので
あまり目くじらを立てるべきではないのかもしれないが、
あたかも全てのアカデミックポストが
"publish or perish"という状況にさらされているかのような言説には要注意だ。