地獄のハイウェイ

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大学教育の質の保証は望ましいことだ

人気ブロガーstochinaiさんの「5号館のつぶやき」に3月25日付けで
「卒業式:大学も学習指導要領?」http://shinka3.exblog.jp/8522660
というエントリーが上がっているのを拝見したが、
自分はいささか異なる感想を持った。

stochinaiさんは、
文科省が学部ごとのカリキュラムに「到達目標」を導入することを決めたという報道に対して、
「悪い冗談を聞いているような気がしますが(後略)」
とのコメント。
それではstochinaiさんは、
日本技術者教育認定機構(JABEEhttp://www.jabee.org/ のような
教育プログラム認定機構のことはどう考えられておられるのだろうか?

JABEE日本物理学会、応用物理学会、日本化学会などの理工系の学協会と
(社)日本技術士会を正会員として、
「高等教育機関で行なわれている教育活動の品質が満足すべきレベルにあること,また,その教育成果が技術者として活動するために必要な最低限度の知識や能力(Minimum Requirement)の養成に成功していることを認定する」
ことを主たる活動としている。
ここで「必要な最低限度の知識や能力」というのは
「カリキュラムの到達目標」とほぼ同じことを意味していると考えてよいだろう。
JABEE英米も加盟しているワシントン・アコードに加盟を果たしたが
これによりJABEEの認定プログラムは
アメリカで認定された技術者教育プログラムと
実質的に同等であると見なされるということだそうだ。

JABEE認定プログラムの修了者は、
文部科学大臣の指定を受けて技術士の第一次試験が免除されているとはいえ、
残念ながらまだまだ社会的認知も高くないし、
また大学経営の観点から見た場合には、決して「魔法の杖」でもない。
しかしアカデミアを含めた「専門家の集団」である学協会が
自分達で「教育活動の品質保証」を行おうとしていることは
優れて社会的要請に応えることと言えるのではないだろうか。

ところがこのJABEEの活動を阻害する大きな問題がある。
それは東大、京大、阪大といった有力旧帝大が全く参加していないことである。
旧帝大のうち北大、東北大、名大、九大は認定プログラムあり)
私学では慶応は参加していない(早稲田は認定プログラムあり)。
認定プログラムがある有力大学(ここでは就職面を中心に考えて欲しい)でも
極めて限られた学科しか参加していないため
JABEEの社会的認知の向上の障害になっているのだ。
だから文科省
「到達目標を取り入れた大学には補助金を上乗せするなどして実施を促したい考え」
というのを打ち出してきている背景には、
有力大学に教育プログラムの認定活動への参加を促そうという意向がなきにしもあらず、
というのが自分の読みだ。
自分の読みが当たっているにせよ外れているにせよ、
「カリキュラムの到達目標」の設定やその保証を考えることに対して
「大学の高校化」といった否定的な感情を持たずに、
社会の中の大学の機能について見直す契機として欲しい。

本題からは脱線するが、
それよりも面白かったのはstochinaiさん曰く
「大学でも、こういう決まり切った高校のような教育をするのでしたら、今のように大学教員は研究者である必要は必ずしもなくなるでしょうから」
というコメントである。
高校のような教育には教員が研究者であることは必要ではないということだが、
それは裏側から見ると
高校のような教育では教員が研究者であることによる優位点はないに等しい、と
告白されたような気分がする。
それは取りも直さず、研究者の卵として巣立った博士号取得者に
そうでない教員免許取得者を上回るものは大してなかろうということなのだろう。