地獄のハイウェイ

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共鳴理論について

今日、Googleで"ポーリング 共鳴理論"で検索したところ、
このblogが先頭に来ていたので、ちょっとびっくりした。
ちょっぴり責任も感じるので、知っている人には今更であるが自分なりに説明を試みよう。

一言で要約すれば共鳴理論は化学結合に関する原子価結合法の定性的な応用である。
まず、ハイトラーとロンドンの原子価結合法では、
分子内の各原子の原子軌道(混成軌道を含む)に電子を配置して得られる複数の構造を考え、
それらの波動関数を線形結合したものが分子の波動関数として扱われる。
たとえばベンゼン分子の波動関数は2つのケクレ構造の波動関数の線形結合で表される。
このときベンゼンのケクレ構造は古典的(量子化学以前ということ)な化学結合論、
すなわち炭素の価電子の数が8になると希ガス配置となって安定するという
ルイスのオクテット則(八隅子則)を満足する構造である。
しかしケクレ構造には可能な電子配置が2通り考えられるので、
ベンゼンの分子軌道を2つのケクレ構造のどちらでもない両者の線形結合として考える、
というのが原子価結合法のやり方である。
このときベンゼンは古典的なケクレ構造のみから予想されるよりも安定であるが、
その安定化は極限構造である2つのケクレ構造の量子力学的な共鳴によるとされるのである。
厳密に取り扱えば量子力学的計算で定量的な取り扱いもできるが、
分子の安定化に関して古典的な極限構造の共鳴の考慮のみで、
定性的な予測をしたり説明したりするやり方が共鳴理論である。

共鳴理論が普及した頃は量子力学の確立から日が浅かったために
軌道準位といった量子力学的考え方になじみの少なかったであろう化学者には
古典的な化学結合概念に共鳴概念を付け足すだけで良かった共鳴理論は
非常に受け入れやすく、また扱いやすかったのだろう。
また極限構造の共鳴という考え方そのものについても
化学結合の再配置による互変異性の概念と一見似たところがあるため
受け入れやすかったのだろう。