地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

やぶにらみ:肝臓癌の増加グラフ

今回の三笠フーズによる汚染米の転売問題は、
複数の業者で似たようなことが行われていることが明るみに出て
汚染米農水省の呼び名では「非食用の事故米穀」)問題は
ようやくメディアでの扱いも大きくなってきたようだ。
それで関心を持った人達の一部から

「10年程前から肝臓癌が増加しているのは汚染米の流通と関係があるのではないか」

という懸念の声が上がってきているようだ。
その元ネタになったのは、
国立がんセンターのがん対策情報センターの公表しているグラフのようだ。
http://ganjoho.ncc.go.jp/pro/statistics/gdball.html?1%2%1
(部位で肝臓、グラフの種類で「年次推移・年齢階級別・数・積上げ折れ線グラフ」を選択)

自分はアフラトキシンの汚染濃度や汚染米の流通量がはっきりしない上に
他の要因(ウィルス感染等)の影響を考慮しなければ、
このグラフだけから上記の懸念について判断することは難しいと思っていたが、
ネットであちこち見ているうちに、この懸念を否定する理由として

「肝臓癌の死亡数が上昇している理由は、死因統計分類のルールが変わったため」

としているサイトがあることに気づいた。
多くの人はそれで「そうか見せかけの増加なのか」と安心するようだが、
自分の感想は全く違う。自分の感想は

「そんなデタラメなグラフを意味ある情報であるかのように公表しているのか!」

何故なら異なる観測量であるものを同一であるようにして連続させているからである。

例えばエンジンの過熱が問題になっているときに、
起動後からの温度の時間変化を表しているグラフを見ているとしよう。
エンジン起動後30分ほどしてから急に温度上昇が起きているので
「この温度上昇の原因は何ですか?」と質問すると
「測定点を放熱板からエンジン本体に変えたからです」
という返事が返ってきたとしたら、
当然のこと、そのグラフは使えない代物だし
グラフの作成者は「科学的常識がない」と判断される。
グラフ上で観測された温度上昇(のようなもの)は、
時間変化ではなく異なる観測量の比較だからだ。

こういう基本的なことが無視されたグラフが、
公の情報として発表されているということに、
何とも暗然たる気分になってしまう。
国立がんセンターの科学的リテラシーは大丈夫なのか?
それともデタラメとわかっていても統計を出しているのか?
これでは国立がんセンターの科学的信頼性が高いとは
とても言えない。