地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

科学リテラシー

『サイエンス・ファクト  科学的根拠が信頼できない訳』

ガレス・レン&ロードリ・レン『サイエンス・ファクト 科学的根拠が信頼できない訳』(ニュートン新書)を読んだ。 www.newtonpress.co.jp 原題は”The Matter of Facts: Skepticism, Persuasion, and Evidence in Science”。著者は、ガレス(父親)が神経内…

結晶学者は太陽電池の夢を見るか?

結晶学という学問のジャンルがある*1。主としてX線や電子線の回折を利用して結晶性物質の構造について実験的に研究する分野で、固体物理や物質科学からタンパク質といった生体分子の構造決定まで広い分野で基礎的な役割を果たしているため関連する研究者も多…

科学的探究のレッスン

1.はじめに 色々なところでダメ科学を見掛けるときに思うことなのだが、そのダメさ加減のかなりの部分がデータの取り扱いにあることは物理や化学といった実験系の精密科学のセンスがあればわかりそうなものだと思う。そういう実験系精密科学のセンスはちょ…

そんなカーゴ・カルト・サイエンスなんか相手にするなよ

DavitRiceさんの「そんな動物みたいなことするなよ」という記事を読んで、元記事ではなくそこで紹介されている実験(?)に対して心底怒りが沸いてきたので、ちょっと思ったことを書く。 davitrice.hatenadiary.jp この本の第二章「欲望の化学」では、スーザ…

リバウンドと呼ぶのは不適切

新型コロナ感染症の新規感染者数が増加傾向にある。マスコミ的には「緊急事態宣言の解除によるリバウンド」と呼びたいらしいが、全く以て不適切。まず東京都が増加傾向に転じたのは、末期とはいえ緊急事態宣言期間中である。あるイベント(緊急事態宣言解除…

人種は存在する

DavitRiceさんの「人種は存在しない…のか?」という記事を見て、社会学方面では人種が存在しないというのが「科学的立場」だという言説があるらしいことを知った。 davitrice.hatenadiary.jp この記事は人種概念が、人種主義(レイシズム)による社会的構築…

科学哲学は科学を理解するのに役立つのか?

科学哲学と科学者との関係について「科学哲学は鳥類学が鳥にとって役に立つ程度しか科学者にとって役に立たない」(”The philosophy of science is just about as useful to scientists as ornithology is to birds.”)という比喩がよく知られている(R.ファ…

比率の比較に気をつけろ

世間で行われている比較の議論でよく見掛けるものに、比較される2つの集団で、ある現象の比率が一方で高いのに、もう一方では比率が低いということから何か片方の集団の特性を議論するというのがある。 この種の比較のやり方は、健康法だったり、受験勉強の…

科学的態度を身に着けるには

偉そうなことを言えるような業績があるわけではないが、 化学系で大学院を出て科学業界の端っこで禄を食んでいるので 科学的な思考法について自分も多少は言っても良いかなと思うが、 科学的思考は文系の人が授業を受けたくらいでは身につかないと思う。 特…

御用学者はやっぱり信用できない

原子力規制委員会の田中俊一委員長が 「SPring-8は定量的な分析はできないのです。」 と発言したと聞いて驚いて調べてみたところ、 本当にそういうデタラメを言っていた。 発言は平成27 年7月1日の「原子力規制委員会記者会見録」 http://www.nsr.go.jp/da…

オレスケス&コンウェイ『世界を騙しつづける科学者たち』感想

原題は"Merchants of Doubt"(疑念の商人)。 邦題よりも原題の方が内容を良く表しているが、 タバコの発癌性や地球環境問題などの分野で 主流の科学的知見に対する疑念を広める活動を積極的に行った 何人かの元は科学者であった人達についての本だ。 一番の…

SFもニセ科学

ニセ科学について書いている「科学のようで科学で無い」という面白い文章を見つけた。 http://d.hatena.ne.jp/ublftbo/20150204/p2 その中で、 「科学のようで科学で無いというのが、ニセ科学の一般的な定義」 という論点から出発して その中で、 「わざと科…

論争しない科学者って

STAP事件絡みのネットの記事を見ていてふと思ったのだが、 同業者が研究不正を追及しないことに関して 「科学者は他人の研究報告を批判しても業績にならないのでしない」式の言説を 見掛けることが割とある。 しかしこれは素直に受け取って良いのだろうか? …

慎重さに勝るものはない

先日、科学とエセ科学を見分けることについて 「役に立たない「七つの基準」」という記事を書いたが、 katsuya-440.hatenablog.com そもそも科学とエセ科学を簡単に見分ける方法があるとか、 そんならくちんなうまい話があると思わないほうが良いと思う。 も…

役に立たない「七つの基準」

朝日新聞の高橋真理子という人が 「エセ科学 見分けるための七つの基準」 http://apital.asahi.com/article/story/2014010800005.html という記事を書いている。 この人は除洗に関わるインチキ商売のことを話題にしたかったようだが 除洗に関してはエセでな…

高校で習う程度の物理が出来る人の頻度

東工大の牧野淳一郎教授の『原発事故と科学的方法』が評判を呼んでいるらしい。 高校で習う程度の物理の知識による計算で 福島原発事故の規模が見積もれたということで非常に面白そう。 それは読んでからのお楽しみとして、 「高校で習う程度の物理」でも市…

科学者の得手不得手

ふと思ったのだが、 科学者と言われる人々が優れている点は、 専門的な知識を別にすれば、 どのような点だろうか? もちろん科学者といっても、 物理系とバイオ系では数学的能力などで大きな差がある。 はっきり言っていわゆるバイオ系だと一部の例外を除け…

本当にDNA鑑定技術が進歩したのなら

足利事件で2009年に菅家さんの冤罪が明らかになったときに、 報道ではDNA鑑定の技術が進歩して その精度は4兆人に1人になったとかいわれていた。 足利事件のDNA鑑定の問題点は恣意的な鑑定にあって精度の問題ではないと思うが (この点は既に書いたことがあ…

ニセ科学って本当に「科学の権威」を利用しているのかな?

はてな匿名ダイアリーに「ニセ科学小考」という記事があがっている。 http://anond.hatelabo.jp/20130517015611 一般人というか非専門家は科学のことを確立された知識と見なしているから、 最先端の科学だという触れ込みのニセ科学に騙されてしまうので、 科…

Ignorance is no excuse!

産経新聞の記者が書いた 「科学取材…専門用語飛び交い理解不能の世界、頭が真っ白に」 http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121030/wlf12103009110001-n1.htm http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121030/wlf12103009110001-n2.htm http…

放射線防護のLNTモデルについて思ったこと

まず最初にお断りしておくが、自分は放射線防護の専門家でもなければ放射線生物学の専門家でもない。だからこれから述べることは放射線の半可通の意見だと思っていただきたい。 まず注意しなければならないのはLNTモデルで扱われている実効線量(Sv単位で表…

専門家は無能だと思いたい?

「原発関連情報の取捨選択に役立つ、糸井メソッド 」http://togetter.com/li/219545 というのを見ていたらその中で「ハンロンの剃刀」という言葉が出ていた。 「無能で充分説明される現象に悪意を見出さない」という 判断基準のことのようだ。 これはこれで…

Diary of a Madman

専門家は専門外のことは素人だと思えというのは、素人は黙っているべきだということではなくて、専門家の専門外のことでの発言は素人の発言と思えということに過ぎない。ごく普通の素人がスポーツや芸術のことにあれこれ好きなことをいうように何かの専門家…

専門家だけど有識者じゃない

少し前の2005年の話になるが、 産業技術総合研究所理事長(当時)の吉川弘之が 皇室典範に関する有識者会議の座長を務めた際に、 「皇室の歴史も知らぬロボット工学者が有識者なのか?」と 多くの非難を浴びたのは覚えておいでの方も多いだろう。 もう何回も…

「科学者」は間違える:一つの実例

今年のノーベル化学賞がシェヒトマンの準結晶の発見に対してであったが、それに関連して分子生物学者の柳田充弘が間違ったことを書いているのを見つけた。柳田のブログの10月6日付けの「ノーベル化学賞について」という記事である。http://mitsuhiro.exblog.…

もう「科学者」にダマされないための5ヶ条

1)専門分野外の科学者は素人と思え これまでも何度か指摘しているが、 https://katsuya-440.hatenablog.com/entry/64832862物理学者は医学者ではないし、天文学者は生物学者ではない。 細胞生物学者は動物学者でもないし進化生物学者でもないし、 また病理学…

安易に断言しないのが科学的態度

sivadさんが「低線量被曝による鼻血について考える」 http://d.hatena.ne.jp/sivad/20110906/p1 という興味深い記事を書いておられる。 低線量の放射線による鼻血というよりも 放射性降下物の粘膜への付着による鼻血の可能性については、 安易に否定すべきで…

化学は科学?

自分は理学部化学系学科の出身なので、 化学がどういうものかについては無知ではないつもりだ。 それで前々から気になっている疑問の一つが、 科学コミュニケーション業界などで見られる 「日本では科学と技術が区別されていない」 「科学(サイエンス)は何…

100mSvの死亡リスクは2010年夏の猛暑による熱中症死者よりも大

最近になって知ったのだが、 厚生労働省による統計だと2010年の熱中症による死者は1,718名だったそうだ。 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001g7ag-att/2r9852000001g7fo.pdf 人口10万人あたりで1.4人だそうだ。 昨年は記録的な猛暑であったため…

日本学術会議会長談話に見るダブスタ:低線量被曝とホメオパシー

日本学術会議会長だった(6月19日付で70歳定年制により退任)金澤一郎は、 退任2日前の6月17日に「放射線防護の対策を正しく理解するために」という会長談話を出した。 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d11.pdf これに対して自分は批判した…