報道によると理研の野依理事長は自民党文部科学部会に出席して京速スパコンに関して
「凍結を主張する方々は、将来、歴史という法廷に立つ覚悟ができているのか」と言ったそうだが、
それならこちらも歴史の法廷に立つ覚悟で受けて立ちましょう。
京速スパコンに関しては今年5月のNEC/日立の撤退によって
ベクトル型+スカラー型の複合システムから
スカラー型単独のシステムへと大きな計画変項がなされている。
自分なりに調べてみたが、断念されてしまったベクトル型の部分こそが、
一時期世界最速を誇った地球シミュレータに代表される日本独自技術の中核であり
スカラー型であれば世界の趨勢を追いかける形になり
技術的な日本の独自性は希薄になる。
もちろんベクトル型を棄ててもコンピューター産業の育成は可能だが
開発凍結で日本が得意とする技術が失われる云々とかいう議論は
NEC/日立の撤退の時点で意味を成さなくなっている。
京速スパコンを戦艦「大和」に喩える向きもあるが喩えるのであれば
むしろ大和型3番艦として建造されながらも空母に変更された「信濃」の方が適切だろう。
(信濃は戦績の方はともかく当時世界最大の空母だった)
またいくつかのロードマップの類を参照すると
京速スパコンの目標である2012年完成時点での10ペタフロップスは、
世界1位になれそうだがすぐに首位から陥落してしまいそうである。
実際、今回の凍結云々に対する関係者の反応でも
「完成を1年も遅らせては性能で2~3倍の差がつく」というのがあるが
これはつまり2013年完成では世界1位になれないということなのだから
2013年には首位から陥落するという予想なのである。
そもそも世界1位という優位がないとダメになる分野というのは
1年間たって2位以下に落ちたら結局のところやっぱりダメになるのではないか。
それに前にも書いたが、
自前のスパコン・メーカーがないヨーロッパ勢(英仏独など)の基礎科学が
日本と比べて遅れているという話もないではないか。
確かに大規模シミュレーション用のインフラとしての価値もあるだろうが、
産業界が京速スパコンをただで使いたい放題に使えると言うのならともかく
受益者負担とかで高価な費用負担を要求するのなら、
(因みに事業仕分けでSPring-8の方では削減の理由が収益性云々だった)
民間企業が自社内で大規模シミュレーションをできるように
地球シミュレータ級のスパコンを非常な安価で製造するための技術開発をした方が
日本の産業界にとって良いことではないだろうか?
また世界のスパコンのシェアを見ると100以内の70%はIBM製のようだから、
一品物の超高級品よりもそこそこの性能の量産品を作れるようにした方が
日本のコンピューター業界の競争力を支援する事になるので、
京速スパコンの計画は凍結して方針転換すべきではないか。