地獄のハイウェイ

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『シン・仮面ライダー』感想

 少し前のことになるが、『シン・仮面ライダー』を映画館で観た。自分のようなTV第1作の『仮面ライダー』(1971年4月3日~1973年2月10日放映)直撃世代にとっては、もしかしたらこんな仮面ライダーを見ることになったのかもしれないという“歴史のif”みたいな感じがして、心に刺さるところの多い作品であったが、直撃世代でないとそういうのは分からないだろうから、見る人を選ぶ作品だと思う。

 TV第1作の『仮面ライダー』は第1話が「怪奇蜘蛛男」第2話が「恐怖蝙蝠男」といった題名からわかるように、初期は怪奇ものの雰囲気があったが、その方向でリメイクとしてはイマイチで、『シン・仮面ライダー』では変にSF趣味の解説(登場人物の説明台詞)が雰囲気を台無しにしていた(怪人同士が謎の言語で会話する『仮面ライダークウガ』の方がその辺はずっと出来が良い)。物語の全体テイストはむしろ”抜け忍もの”のようになっていて、一緒に観た嫁さんは「キカイダーの方に似ている」と言っていた。石ノ森の漫画版(自分は読んだことはなかったが、厳密な意味では原作ではなくメディアミックス作品)は、その方向だったのかもしれないが、我々の世代が夢中になったのは2号ライダー以降の明快な勧善懲悪のアクションヒーローものだったので、その点では懐メロ的な期待はだいぶ裏切られた。一方であの時代の空気を吸って育った我々には、「もしかしたら仮面ライダーはこんな風になってたかもしれない」という実感は強くあって、物語としては一部の悪評ほどの期待外れではなかった。

 ただ、肝心のアクションはダメだった。予告編の格闘シーンの重量感・スピード感が欠如していて非常に不安に思っていたのだが、その不安が完全に的中していた。先日NHKで放送された製作ドキュメンタリーで、「アクションにこだわった」とか言っているのを見て、腹が立って速攻でTVを切ったくらい、アクションが安っぽかった。ネット情報を見ると本職のスーツアクターを使わず、アクションが本職でない俳優さんにやらせたらしいが、格闘技経験のほとんどない素人に演じさせたら、迫力不足の動きになるのは当然だ。パンチ初動の弾力ある加速感やフォロースルーの風圧のような感じがないと簡単に避けられそうな気分がして迫力を感じることができないのである。我々の世代は、ライダーキックの洗礼の後にブルース・リー映画を見て育ったので、本当のことを言えば今となっては元の『仮面ライダー』のアクションでさえ少し古臭く感じる。今時の洋画だとマーベルとかのアメコミ映画の大袈裟なCGアクションシーンよりも、『エクスペンダブルズ』とかそっち系のアクション映画の方が”肉体言語”を感じるのだが、残念ながら『シン・仮面ライダー』は前者の劣化版のようだった。