先日も少し触れた内井惣七の「ダーウィンの思想」(岩波新書)を読んだ。
コンパクトにまとまっているが、
それが故にある程度ダーウィン本を読んだ人にとっては
目新しい情報や分析がある訳ではないし、
ダーウィン以降の進化論とか進化生物学にほとんど触れていないので
進化論に関心を持った初心者が読む本としては
あまり薦められる本だとは思わない。
ダーウィンの進化論の理論的中核が自然選択にあることは
多くの人の共通認識だと思うが、
ダーウィンの自然選択に関する議論を要約すると
1)生物には変異があり、かつその変異は少なくとも部分的には子孫に遺伝する。
2)生物は生き残れるよりも多くの子孫を産むため子孫の間で生存競争が生じる。
3)生存競争によってその環境により適した変異を持った子孫が生き残って繁殖する。
という前提から
4)生物は世代を重ねるにつれより環境に適するように変化していく。
ことを結論をするといった風にまとめる事ができるだろう。
内井は第3章で「マックスウェルのデモン」を真似た
「ダーウィンのデモン」という喩え話でその解説をやっているが、
そこでは変異の遺伝性について暗黙裡に前提していて
何の説明もない事が自分にとっては極めて不満だ。
遺伝性でなければたとえ望ましい性質をいくら選抜しても
生物は進化しようがない。
後のネオ・ダーウィニズムとネオ・ラマルキズムの対立のキーポイントになるが
後天的に獲得した形質は生存に有利でも遺伝しないので進化に寄与しない。
ダーウィン自身は遺伝機構に関する十分な知識がなかったため
獲得形質の遺伝を否定しておらずそのあたりが曖昧になっているのだが、
我々は後知恵で選択される変異が遺伝性でない限り進化に寄与しないことが分かる。
この点について素通りしているのは
まえがきにある「ダーウィンの思想の本質に迫る」という目標から見ると
大いに問題があると思う。
また内井の「分岐の原理」に関する説明にも疑問があるが
それについては別途書きたいと思う。