地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

A.ローゼンバーグ『科学哲学』

自分は学生の頃から科学哲学に関心があって色々と本も読んできた。
伊勢田哲治の「科学哲学日本語ブックガイド」http://tiseda.sakura.ne.jp/PofSbookguide.html
で紹介されている中の25冊は読んだことがある。
(読んだからと言って十分に理解しているとまでは主張しない)
そこで最近の科学哲学の教科書として伊勢田が紹介している
A.ローゼンバーグ『科学哲学』春秋社(2011年)を読んでみたのだが伊勢田の『科学哲学の源流をたどる』を読んだときと同様の徒労感を覚えた。
前書きではヘンペルの『自然科学の哲学』を継承することを目指したとか書いてあったが、翻訳であることを差し引いてもとてもそうは思えない代物だった。

些細なことだが例えば化学結合や周期律の理論的根拠が「原子核理論」と書かれているとげんなりする。(もしも原文が間違っていたとしても訳者は気が付かないのか?)
ウィーン学団やベルリン学派が純粋の哲学者ではなく科学研究や数学研究の専門訓練を受けた人々によって始められ第2世代の「新科学哲学」が科学史の事例研究を参照していたのと比べて伊勢田のそれもそうだったが現代の科学哲学が科学者の科学哲学的考察から離れて自律的な「研究伝統」となった弊害が顕著で科学研究の実例の分析よりも科学哲学者の論文に範をとっているせいで科学研究に疎い素人臭い印象がぬぐえない。
科学者が気にすることと哲学者が気になることは違うのは仕方ないのだが、科学的説明の議論で市庁舎の旗竿の高さの話しなんかされても嫌になる。

物理学や化学といった自然科学の中核部分と生物学や地質学なんかが知識のあり方として同じだとは思わないが、そういう部分に共通性なり異質性なりを棚上げした状態で
ユルユルの「科学」を哲学的な伝統に則って論じるなら哲学の論文が書けるかも知れないが科学と呼ばれるものの理解が進むとは思えない。