地獄のハイウェイ

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マスク!マスク!マスク!

今回の新型インフルエンザ騒動で、あちこちでマスクが品切れになる一方で、
マスクには予防効果がないというのが世界の常識とか、
マスク着用を揶揄する意見もよく見掛ける。

自分はマスクによってインフルエンザを十分に予防できるとは思わないが、
しかし何の効果もないというのも言い過ぎだと考えている。
そういう短絡的な決め付けは、ほんのわずかなリスクの存在も許せない
いわゆる「ゼロリスク症候群」と大差ない思考パターンだと思う。

一般用のマスクはほとんど効果がないという意見の人でも
医療関係者が使うN-95は予防効果がある、というのが大多数であろう。

それではN95マスクの規格について調べてみよう。
N95マスクというのは米労働安全衛生研究所(NIOSH)の規格で
試験微粒子(粒径1μm以下)の95%以上を除去できる非耐油性マスクのことだ。
具体的な規格は以下のサイトが参考になる。
http://www.koken-ltd.co.jp/iryoushisetu.htm
http://pharm.ws/drugs/SARSmask.htm
これらを見ると、日本の労働安全用の防塵マスクの規格のDS2というのが、
微粒子除去率95%以上でほぼN95規格に相当することが分かる。
ちなみに日本の規格では除去率80%以上のDS1という規格もあって
これは解体工事の現場などでよく見掛けるのカップ型防塵マスクがそれだと思われる。
DS1規格のマスクのカタログなどを見ると保証性能はもちろん除去率80%以上だが
実測性能は94%とかそういう数値が出ている。
http://www.mmm.co.jp/ohesd/particulate/dispos_01.html
DS2でN95とほぼ同等であるばかりでなく
顔面にきっちりフィットすればDS1でもかなりの除去率が期待できるようだ。

一般のマスクには微粒子の除去率に関しては特に規格はないようだが
finalventさんの「極東ブログ」が紹介しているニューヨークタイムズの記事によると、
除去率62%といったところのようだ。
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2009/05/post-be2c.html
またN95マスクの満足すべき微粒子除去率は95%以上だが、
実際の除去率はfinalventさんの記事にもあるように98%といったところなのだろう。

医療分野では粒径5μm未満の粒子による感染が空気感染で、
咳やクシャミの飛沫感染は5μm以上の粒子によるもの、とされているようだから
http://www.kanazawa-hosp.jp/service/rinkensa/rinkensa07.htm
N95はもちろんDS1やDS2も空気感染を念頭に議論するのが相応しいものだろう。
そしてインフルエンザは飛沫感染が中心だから
空気感染基準で議論できるDS1でも相当に予防効果が期待できることは理解できる。

さてDS1マスクの実効除去率を94%とし
N95マスクの実効除去率を98%とすると
除去しきれない微粒子の透過率(?)はそれぞれ6%と2%となる。
また両者の比は3対1、つまりN95マスクの透過率はDS1マスクの約33%ということになる。
一方、先の記事に基づけば一般のマスクの透過率は38%になる。
この数値から考えると、一般用マスクをすれば何もつけない場合と比べると
N95マスクとDS1マスクを比較したのと同程度であるから、
工事用防塵マスクを医療用マスクに換えた程度の効果が見込めるということになる。

もちろん防塵マスクなら透過率は一般用マスクの15%なのだから
効果には歴然とした差があることは当然だ。
技術系の言い方で表現すると、
一般用マスクはファクターで効くが防塵マスクならオーダーで効く、
といったところだろうか。