地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

放射線防護のLNTモデルについて思ったこと

 まず最初にお断りしておくが、自分は放射線防護の専門家でもなければ放射線生物学の専門家でもない。だからこれから述べることは放射線の半可通の意見だと思っていただきたい。

 まず注意しなければならないのはLNTモデルで扱われている実効線量(Sv単位で表現されている)というものがGy(グレイ)で表現される吸収線量のような厳密な意味での物理量ではないということである。吸収線量が電離放射線を照射された単位質量の物質が吸収するエネルギーの量なのに対して等価線量は臓器などへの影響を見積もるために吸収線量に放射線荷重係数を掛けたもの、さらに実効線量になると各組織・臓器ごとの等価線量に組織荷重係数を乗じて合計したものだ。
 実はX線でも波長というかエネルギーが変わると透過率が変化するからある臓器(例えば肝臓)のどこでどのくらいイオンが生じているかは変わってくる。例えば1mmのポリプロピレンによってX線のエネルギーが20keVだったら3%強しか減衰しないが、4keVの場合だったら95%近く減衰してしまう。だから臓器単位で吸収線量をそろえても厳密には同じ影響になるわけでない。細かい議論をしないでX線の放射線係数はエネルギーによらず一定とする、そういった粗いやり方で被曝線量の見積もりをしている等価線量を更に臓器ごとで荷重したもの凄く粗い尺度が実効線量というものなのだ。
 もしも臓器ではなく細胞単位で特定のエネルギーの放射線の吸収線量とその影響の関係を見ればその直線性はもっときれいに示せるのかもしれないが、そこまで厳密なものではない実効線量で議論してもデータがばらつくのが当然だ。内部被曝なら放射性同位元素の酸化数とか化学状態で生体内での挙動が大きく変わるのでその影響を大雑把に見積もることしかできないのは仕方がない。
 そういった事情を勘案すれば実効線量と健康への確率的影響が直線に乗っているのは
各種係数の設定がかなり上手くできているからだと評価するべきだろう。むしろある程度の大きさ以上の線量域で線量と健康への影響の関係が評価できるように各種係数が設定されていると評価すべきかもしれない。
 だから実効線量というものは、生物学的な影響を十分な精度で評価できるような線量域でのみ線量-影響の関係が議論できるような性質の尺度だと考えるべきなのだ。いつでも生物学的影響を十分な精度で評価できると期待してはいけない。喩えて言えば、低線量領域で健康への影響を定量的に議論しようというのは1mm目盛りのものさしで0.1mm程度の大きさの物体の熱膨張係数の測定を試みるのと似たようなものだ。
 低線量領域での影響に関するデータのバラつきをもとに上に凸だとか下に凸だとか言ってモデルの妥当性を議論するというのはあまり科学的な議論だとは思えない。