地獄のハイウェイ

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科学哲学は科学を理解するのに役立つのか?

 科学哲学と科学者との関係について「科学哲学は鳥類学が鳥にとって役に立つ程度しか科学者にとって役に立たない」(”The philosophy of science is just about as useful to scientists as ornithology is to birds.”)という比喩がよく知られている(R.ファインマンの言葉とされることも多いが証拠はないらしい)。上手い比喩だと思うのだが、よく考えてみると、鳥類学が鳥という生物を理解するのには役立つのに対して、現在の科学哲学が科学という知的営みを理解するのに役に立っているのだろうかと疑問を覚える。古典的なポパー反証主義とかクーンのパラダイム論とかは、科学の素人に科学の理想や実際について大雑把な説明をする際には役に立つとは思う。しかし、伊勢田哲治が『科学哲学の源流をたどる』で言っているような「研究伝統としての科学哲学」というのの現在のあり様は、科学の素人(科学研究に関する専門的なトレーニングを積んだことのない人)に、「科学とはこんなものなんですよ」といった説明に使える要素は、残念ながらほとんどないように思われる。率直に言って科学史のほうが科学の実例に沿っているだけ、科学というものの理解に資するように思う。

 

2019年11月11日追記:英語で言うとすれば、

The philosophy of science is not as useful for understanding science as ornithology for understanding birds.

といったところだろう。