地獄のハイウェイ

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『サイエンス・ファクト  科学的根拠が信頼できない訳』

 ガレス・レン&ロードリ・レン『サイエンス・ファクト  科学的根拠が信頼できない訳』(ニュートン新書)を読んだ。

www.newtonpress.co.jp

 原題は”The Matter of Facts: Skepticism, Persuasion, and Evidence in Science”。著者は、ガレス(父親)が神経内分泌学者、ロードリ(子)が科学論研究者である。このため本書で取り上げられる事例は神経内分泌学関連の事例(G.ハリスとS.ザッカーマンの論争やオキシトシン研究の流行など)が多いのだが、その紹介は科学コミュニティと科学論の両面から行き届いたものとなっている。

 本書は「科学的事実」の構築やその物語化、流布の実際について、一般向けに紹介したもので、科学論についてもポパー、クーンといった古典的科学哲学から科学社会学、ラトゥールまでが(いずれも好意的に)取り上げられている。特に科学的研究が日常的に色々と歪んでしまうことについて分析していて非常に興味深い。科学における不正行為についてはブロード&ウェイドの『背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』(原著1983年)が有名だが、そちらが虚偽や欺瞞といった病理的な事例を取り上げていて「科学の病理学」っぽいのに対して、こちらはリアルな科学の日常的現場でのバイアスや査読や引用の歪みを取り上げていて言わば「科学の生態学」といった趣きで、科学を専門としない一般の人に紹介するのに適切であると思うし、それ以上に科学に携わる人達に多くの共感を受けるのではないかと思う。

 現代の科学について考えようという人にはぜひ読んで欲しい一冊だと思う。