地獄のハイウェイ

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Stay at home!

 4月16日、新型コロナウイルスの感染拡大に対して政府は緊急事態宣言の対象を全国に拡大した。4月7日に7都府県に対して緊急事態宣言を出したときに安倍首相は人と人との接触機会を最低7割、極力8割、削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。と述べていた。それであれこれ考えたことを書く。

 自分は化学系学科の出身で、疫学についてはずぶの素人。基本再生産数みたいな話はいまいちピンと来なくて、どちらかと言うと学生時代に学んだ化学反応速度論からの類推で考える方がイメージしやすい。化学反応速度論で2分子間の衝突で起きるような反応は、反応速度が濃度の積に比例する。同種分子間の反応だと反応速度は濃度の2乗だ。それとの類推から考えると、人と人との接触頻度は単位面積当たりの人数の2乗に比例しそうなので。人出を半分にすれば接触頻度は4分の1(25%)にできるので、政府の目標が達成できそうだなあと思っていたが、報道や世間の受け止め方はそうではなくて人出を7割削減、すなわち単位面積当たりの人数を3割未満に抑えることを目指しているようだ。にわかには納得できなかったのでもう少し考えてみた。

 新型コロナウイルスの感染経路としては、飛沫感染接触感染が主なものだと言われている。感染者が出す飛沫をダイレクトに吸い込むような飛沫感染については、人と人の接触頻度(あるいは接近頻度)の問題と考えて良いはずだ。しかし感染者の飛沫が、そこらの器物に付着したのに接して感染するような場合は、単純な接触頻度だけ考えれば良いわけではない。今回の新型コロナウイルスが付着してから感染力がどのくらいの時間維持されるかについて調べてみると、環境条件(温度や湿度)や材質によって変動するが、感染力は数時間から数日といったかなりの長い時間維持されるようだ(感染力の半減期ステンレス上で5.6時間、プラスチック上で6.8時間という研究もある)。これは、例えば夕食に入ったレストランがガラ空きでも、その日の昼食時に感染者が向かいの席で咳き込んだり唾を飛ばしていたら感染の危険が無視できないということを意味している。つまり目の前にいる感染者だけではなく数時間前の感染者の行動の軌跡まで考えないといけない。感染者を点ではなく細長い物体のように考えて、それとの接触機会を減らすように考えないと拙いということだ。そう言われると化学系の人間なら高分子溶液の理論のようなものを連想するかもしれないが、そんな複雑なことを考えなくても感染者が行動した範囲を汚染域と考えて、そこに人間が入ると感染可能性が生じると考えるようにすれば近似として十分だろう。

 新型コロナウイルスは、症状の出ていない潜伏期や不顕性感染者からの感染が無視できないらしいので、感染の自覚なしにそこらに飛沫を付着させている人が相当数いるわけだ。そういう人たちによって汚染された領域に立ち入らないようにするには、「人混みを避けろ」、”Social Distancing”よりも、「外出を控えろ」、”Stay at home”といった標語の方が適切なのだと思う。