地獄のハイウェイ

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iPS臨床試験の広報に見る不誠実さ

STAP事件の余波を受けて理研CDBの解体云々が取り沙汰されているので
CDBが実施予定のiPS細胞を使った臨床試験についてちょっと調べてみた。
概要は理研広報のページや臨床試験の特設ページなどにあるが
それらを見ていてちょっと疑問を持った。
http://www.riken.jp/pr/topics/2013/20130730_1/
http://www.riken-ibri.jp/AMD/

臨床試験の対象となるのは滲出型加齢黄斑変性というもので
網膜の中心部での脈絡膜新生血管という異常に形成された血管から滲出と出血によって
網膜が損傷して視力が低下する病気だそうだ。
それで従来の治療法で効果が無いか再発を繰り返す患者を対象に
iPS細胞から作った網膜色素上皮(RPE)シートの
安全性の確認のため臨床試験を実施するということだ。
最終的には網膜の視細胞を含んだ再生が目標だろうから
今回のRPE細胞の移植はごく初期の段階に過ぎないというは分かるし、
また理研広報のページの「臨床研究実施の妥当性」の項を見ても、
取り扱いや経過観察のし易さから選ばれているのであって
治療効果の高さの故に選ばれているのではないことも理解できる。
ところがそういう事情は背景に退いてしまって
何だか画期的な再生医療の第一歩であるかのように報道されていて
ちょっと宣伝が過ぎるようにも感じないではない。

ところで現在の標準的な加齢黄班変性の治療法というのは、
日本眼科学会の解説( http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_karei.jsp )などを見ても
理研の広報や臨床試験のページにもあるように
抗VEGF(内皮増殖因子)薬の硝子体内注射であるようだ。
この治療法では脈絡膜新生血管ができるのを抑制するものだから、ということで
理研広報のページでは
「しかし、これらは新生血管の発生や増殖を抑えるための治療であり、新生血管がすでに存在している部位には、治療後も変性した組織やRPEの障害が残ります。」
として、
新生血管を取り除きRPE細胞を移植することが根本的治療法のために必要だとしている。

しかしながら日本眼科学会の解説の方を見ると
理研広報のページに触れられていない光線力学的療法(PDT)という
増感剤を脈絡膜新生血管に集積させて低出力レーザーで血管を閉塞させる方法もある。
臨床試験の特設ページではPDTについては僅かに名前だけ言及されている)
このPDTはそれなりに有望な治療法のようだし、
理研CDBのすぐ近くにあって今回の臨床試験にも協力している
神戸市の中央市民病院の眼科でも実施されている。
http://www.hosp.ne.jp/kobe_ophthal/topics.html#01
理研臨床試験を主導する高橋政代はここのメンバーでもあるからPDTを知らないはずはない。
http://www.hosp.ne.jp/kobe_ophthal/staff/takahashi.html
それなのに理研広報のページでは、PDTをスルーすることで、
今回の臨床試験の治療効果への読者の期待が高くなるように誘導している。
どう考えてもちょっと不誠実な情報提供のやり方ではないだろうか。