地獄のハイウェイ

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ケプラー「宇宙の調和」

 ガリレオによる初めての望遠鏡による天体観測から400年目という、世界天文年は日本でも46年ぶりの皆既日食という天佑もあってかなりの盛り上がりを見せているようでそれはそれで喜ばしいが、400年前の1609年には天文学においてガリレオの偉業以外にも重要な発展があったことがあまり強調されていないのは残念だ。
 1609年にあった天文学における重要な発展とは、ケプラーがその著作「新天文学」"Astronomia nova"を発表したことだ。この著作の中でケプラーは惑星軌道を楕円として第1法則と第2法則を発表したのだ。

 残念ながらこの「新天文学」の邦訳は出ていないのだが*1、第3法則を発表した「宇宙の調和」"Harmonices Mundi"は、今年になって工作舎から完訳が出ている。

www.kousakusha.co.jp

(何故か邦訳では原題の表記が"Harmonice Mundi"になっている)

 目次を見てもらえば分かるように、惑星軌道の理論書というよりも音楽理論と融合した宇宙のハーモニーに関する書物であって近代天文学の書物では全くないのだから、天文学史的興味よりも広い科学史/思想史的関心がないと読むのはつらいかもしれない。それでも近くのジュンク堂にあったので思い切って購入した。

 読み通すのは何時になるか分からないが、ページをパラパラとめくっていると面白いことに、ガリレオの父親のヴィンチェンツォ・ガリレイの名前が何度となく見られるのだ。(ガリレオの名前は索引で調べても出てこない)
 ヴィンチェンツォは古代ギリシア音楽理論の研究家として当時著名だったようで、ケプラーもヴィンチェンツォの著作を熱心に研究していたようなのだ。ガリレオが音楽家の父親を持っていたことはぼんやりとは知っていたが、論証的な著作を発表していた知識人であったことは初めて知った。2次資料ではこういった事柄は省略されがちなので、翻訳であっても原典を見るのは楽しい。

*1:2013年に工作舎から邦訳が出版された。

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