地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

科学史

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(3)まとめ

紀元前3世紀にアリスタルコスが宇宙の中心に太陽が位置するとした太陽中心説を唱えたことは広く知られているものの、資料が乏しいため、その学説の詳しい内容についてはよく分かっていない。アリスタルコスの太陽中心説についての情報源としては、時代的にも…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(2)外惑星について

前回の記事「アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について」の続きで、アリスタルコスの太陽中心説における外惑星(火星、木星、土星)について考えてみた。 外惑星は内惑星と違って、太陽の位置による束縛を受けず黄道上で任意の離角をとり、…

アリスタルコスの太陽中心説を再考する(1)内惑星について

先日、アリスタルコスの太陽中心説(地動説)について「アリスタルコスの恒星天球」という記事を書いたので、興味を持ってちょっと調べてみたのだが、アリスタルコスが太陽中心説を書いた著作が失われてしまっているため、太陽中心説の具体的な中身について…

アリスタルコスの恒星天球

サモスのアリスタルコス(紀元前310頃~230頃)が太陽を宇宙の中心とする地動説(太陽中心説)を唱えたことは良く知られていて、自分もそれに関連する記事を書いたことがあるが、アリスタルコスの地動説はそれなりの知名度を持ちながらも、その中身について…

エウドクソスの太陽と月

古代ギリシア天文学の歴史において、空想的なレベルを脱した天体の運行のモデルが提案されたのは、エウドクソス(390 BC頃~337 BC頃、408 BC頃~355 BC頃説もある)による同心天球説球を嚆矢とする。このエウドクソスの同心天球説では、宇宙の中心に地球を…

アルキメデスは周転円説を知っていたか?

地動説と天動説の話になると、つい天動説≒周転円説と考えがちだが、よく考えてみると、アルキメデス(紀元前287頃~212頃)が知っていた天動説は周転円説ではない可能性が高い。というのは周転円説の最初の開拓者は、アルキメデスと並ぶ古代ギリシア数学の最…

アルキメデスが地動説支持者だったかもしれない件

古代ギリシアにおいてサモスのアリスタルコス(紀元前310頃~230頃)が太陽を宇宙の中心とする地動説を唱えたことは良く知られている。アリスタルコス自身の著作は『太陽と月の大きさと距離について』*1が伝わるのみで、我々はアリスタルコスの地動説の詳細…

科学的実在論論争が科学から見て無益であること

先日の記事「科学哲学は科学を理解するのに役に立つのか?」を書いたものの、何故そう思うのかについては説明していなかったので、そのあたりを少し補足しておこうと思う。 以前に「滅びゆく科学哲学:伊勢田哲治『科学哲学の源流をたどる』」でも書いたのだ…

科学哲学は科学を理解するのに役立つのか?

科学哲学と科学者との関係について「科学哲学は鳥類学が鳥にとって役に立つ程度しか科学者にとって役に立たない」(”The philosophy of science is just about as useful to scientists as ornithology is to birds.”)という比喩がよく知られている(R.ファ…

物理や工学に背を向けた科学思想史の価値はあるのか?

数日前に科学思想史家の金森修という人が亡くなった。 日本では数少ないカンギレムなどのフランス系の科学思想の専門家でもあり サイエンス・ウォーズを論じたりして結構有名だった人のように思う。 数年前に金森が編纂した『科学思想史』(勁草書房) http:…

原亨吉ハ先学ニ非ズヤ

デカルト『幾何学』(原亨吉訳、ちくま学芸文庫)を購入して、 パラパラ見ていたところ、 ちょっとなぁという文章を見つけてしまった。 本文ではなくて科学史家の佐々木力が書いている解説のところ。 「私は科学史・科学哲学,とりわけ数学史の修業を,1970…

川崎謙「神と自然の科学史」感想

学術書ではないので、カルチャーセンターの講演くらいに思えば腹は立たないのであるが、帯の宣伝文句「「自然」と"nature"はどう違うか?比較科学論への招待」、に興味を惹かれて読んでみたものの杜撰な論証にがっかりした。 本書では、思考や世界観などは母…

近代西洋科学が誕生した頃

日本人が近代西洋科学の優秀性を認めたのは江戸時代の蘭学に始まると見て良いと思うが、蘭学の中で最も中心的な医学であったことは良く知られている。杉田玄白、前野良沢らがオランダの解剖学書を苦心して翻訳し、「解体新書」(1774)を出版したのは中学で…

伝統医学としての予防接種

ワクチン(vaccine)という言葉が、 E.ジェンナーが牛痘から種痘を開発したことに因んで 牝牛を表すラテン語"vacca"から造語されたことにも見られるように ジェンナーの種痘は近代医学の予防接種の先駆けと見なされている。 それはそれで間違っているわけで…

歴史の敗者としてのホメオパシー

「極東ブログ」のfinalventさんが、 ホメオパシーの祖であるサミュエル・ハーネマンについて記事を書かれている。 http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/07/samuel-hahneman.html 生没年から言えばハーネマン(1755~1843)は、 種痘のエド…

ローマ人と科学

伊東俊太郎の「近代科学の源流」(中公文庫)を読むと エウクレイデス(ユークリッド)やアルキメデスといった 古代ヘレニズム科学はローマには十分には伝わらなかったようだ。 ローマは橋や道路といった建築や土木事業は盛んで優れていたが 実用に結びつか…

天動説の発展史における自然学と天文学の葛藤

プトレマイオスの『アルマゲスト』以降の天動説の発展史は興味深い(主として参考にしたのはコペルニクス『天球回天論』(高橋憲一訳)の訳者解説)。 まずプトレマイオス自身が、『アルマゲスト』では導円半径を一定にした計算モデルだったものを、『惑星仮…

奴隷解放のために科学理論が必要なのか?

一昨日に「ダーウィンが信じた道」に否定的に言及したが、 katsuya-440.hatenablog.com 読む気があまりしない理由をもう少し書いておいた方が良いだろう。 奴隷制を否定するために進化論を研究したのであれば ダーウィンは立派な人物ではないかというという…

ダーウィン崇拝は宗教に近いかも

今朝の読売新聞の書評で、 A.デズモンド&J.ムーアの「ダーウィンが信じた道」が取り上げられていた。 実は先日本屋に行った際にも見掛けていたのだが 個人的にはダーウィン本にはいささか食傷気味ということもあって ちょっとパラパラと見ただけで購入はし…

ケプラー「宇宙の調和」

ガリレオによる初めての望遠鏡による天体観測から400年目という、世界天文年は日本でも46年ぶりの皆既日食という天佑もあってかなりの盛り上がりを見せているようでそれはそれで喜ばしいが、400年前の1609年には天文学においてガリレオの偉業以外にも重要な…

パラダイムとはお手本のことである

パラダイムというとT.S.クーンのパラダイム概念が有名だが、 本来は「凡例」とか「模範」のことで、 そこから派生した用法としては品詞の語形変化表といったものもある。 例えばB.ラッセルの「記述の理論」は かつて「哲学的分析のパラダイム」とも呼ばれた…

ある同時代人達

ノストラダムスが生前に予言者としての名声を得たとされる 1559年フランス王アンリ2世の死(槍試合での事故が原因)について たまたま面白い事を知った。 事故で重症を負ったアンリ2世の診察・治療には 近代外科学の祖と呼ばれるアンブロワーズ・パレと 近代…