地獄のハイウェイ

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企業研究者には在野研究者の自由はない

 今年のノーベル化学賞旭化成名誉フェローの吉野彰さんが受賞したので、ちょっと思ったことを書く。

 吉野さんは2017年から名城大学の教授を務めているので、現在はアカデミアにも籍があるわけだが、それまでは基本的にはノンアカデミックなキャリアだっだわけだ。それで思い出したのは、明石書店というところから出た『在野研究ビギナーズ』という本のこと。この本は基本的に文系の「在野研究者=大学に属さない民間の研究者」とみなせる分野が中心の話なので、企業研究者のことは考慮の外のような扱いだが、化学系や工学系だとノンアカデミックな企業研究者はいっぱいいる。ここで企業研究職というのは研究を業務として雇用されている人だけではなく、研究支援職であっても学会に属しているような人も含めて考えて欲しいのだが、そういう企業研究者には文系の人が考えているような在野研究の余地はほとんどない。

 企業研究者の多くは概ね大学院で専攻していた分野の専門性を買われて雇われているわけで、自分の専門性を生かした研究発表をしようとした場合に色々と考えないといけないことがある。少しでも会社の研究資源を使っていることから派生しているようなものや会社の業務との関連性があるものは会社の発表許可が必要になる。それだけではなく雇用主が賛助会員とか企業会員をやっているとか、あるいはその関係者が確実に情報を見るような場合には、所属をどのように表記すべきかということを考えなくてはならない。その分野で〇〇株式会社のAさんとして名前が知られている場合に、無所属とかの表記で所属を示すことはできないと考えなければならない。兼務とか客員研究員とかでアカデミックな機関に属していれば、そちらの所属で発表することができるが、そのためには、そもそも兼業届とか社内手続きを通しておかなければならない。

 時間外の研究についてであっても企業研究者には制限がある。現在、自分自身は公的機関に雇われているが、以前に技術サービス会社に勤めていたときに、時間外に放射線管理区域で実験することを会社に拒絶されたことがある(所属元の業務従事者として扱えないから労災の対象にできないという理由)。ポスドク問題とかで、アカデミックポジションを諦めて企業に就職したらという話がよく聞かれるのだが、理工系なら専門性を生かして民間就職をしたら在野研究などすごく難しいし、在野研究ができるような就職なら専門的能力など評価されそうにないのだ。

 

2020年8月11日追記:関連する過去記事