地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

単なる「個人」が研究できるのか?

榎木英介さんが「科学政策ニュースクリップ」の
「書評 水月昭道著 ホームレス博士 派遣村ブラック企業化する大学院(光文社新書)」
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20100919/p1
という記事の中で、

 本書を読み進めながら思ったのは、水月さんはじめ、博士がアカデミアに何らかの形で強いこだわりを示すのは、背後に一つの大きな問題があるのではないかということだ。それは、研究をするという、人類の持つ基本的人権米本昌平氏)を、大学、研究機関が独占しているという事実だ。

 非常勤講師など、どんなに細い糸でも、アカデミアとつながっていたい、それが切れたらこの世の終わりだ…そう思うのは、アカデミアの外では研究ができないからだ。

 いったん外に出ると、図書館にも入れない、文献も読めない、研究費も得られない…そう思っているから、博士はワーキングプアになっても大学に関わるのではないか。

 もし、アカデミアの外でも研究ができるのなら、無理して非常勤講師だけで食っていく必要などない。もうちょっと割のよい仕事を見つけ、生活できる体制を整え、余暇で研究するという道も出来る。


と書かれていることは、全くその通りだとは思う。
書かれている趣旨そのものには異論はないのだが、
残念ながら理工系の場合にはかなり難しい現実があると思う。

もちろん企業人からアカデミック・ポストに移る人もいないではないし、
マチュアながら活躍している人もいないではない。
だが、高価な装置や試薬などに依存する度合いの高い先端分野であれば、
そういう研究資源にアクセスできる関連業界に就職できなければ、
元々の専攻分野から離れざるを得ない。
タンパク質の構造解析をやっていた人間が、
製薬会社とか解析装置のメーカーに行けばともかく
畑違いの例えば食品産業に就職してしまったら例外的なケースを除けば
その企業の所属名で学会発表は難しくなる。
そもそもどこの企業だって自分達の利害の枠外で
自社の名前が使われるのは嫌がるだろう。
経営者の立場を想像すれば、
社内で許可なしの学会発表をどこまで許容できるか?
協賛会員として加入している学会ならコントロール下に置きたがるだろうし
そうでないようなところなら趣味の活動として
純粋なる「個人」としてやってもらいたいというのが大方のところだろう。
科研費の研究者番号は原理的には個人でも取得可能だが
所属する会社の就業規則で許可されるのか
就業規則に違反しないとして許可をとれるのかどうか、
許可なしにそういうことをした場合には不利益な扱いを受けないのか、
そんなことを考えると厳しいものがある。
会社員がNPO法人の役員をやる難しさと似た点がある。
就職したら自営業でない限り、
仕事ではない学術のような公的側面のある活動は難しい。