地獄のハイウェイ

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比率の比較に気をつけろ

 世間で行われている比較の議論でよく見掛けるものに、比較される2つの集団で、ある現象の比率が一方で高いのに、もう一方では比率が低いということから何か片方の集団の特性を議論するというのがある。

 この種の比較のやり方は、健康法だったり、受験勉強の方法だったり、様々な分野で頻繁に見られるのだが、注意をしないと間違った結論に結び付く。例えば日本での親族による殺人が他国よりも高いことをもって、「日本は親族殺しの傾向がある」と議論するようなのがそれである(例えば、ダ・ヴィンチニュースの2017年6月28日付の「日本の殺人事件の55%が「親族間殺人」という現実」もそのような傾向の議論に当たるだろう)。

 人口10万人当たりの殺人件数の統計(例えば、https://www.globalnote.jp/post-1697.html )を見ると、日本は0.24件/10万人である。このうちの55.0%が親族によるものだとすると、0.13件/10万人となる。同じ統計を見るとアメリカ合衆国の殺人件数は5.32件/10万人であるが、アメリカの親族による殺人事件の割合を16.0%(古いデータだが1983年の犯罪白書によると16.9%らしい)と仮定すると0.85件/10万人となる。この数値を使うと親族による殺人の比率は日本がアメリカの3.4倍であるが、親族による殺人の発生確率はアメリカが日本の6.5倍ということになる。比率による比較と発生確率の比較では印象が全く逆転する。

 殺人件数の統計ではなく、これを別のものに置き換えて考えてみよう。例えば何らかの計測で、ノイズカウントが53.2cps(装置由来のノイズは8.5cps、比率にして16%)だったものを2.40cpsまで軽減するノイズリダクション法によっても装置由来のノイズは1.32cps(ノイズ全体中の比率にして55%)残るとしよう。この場合にこのノイズリダクション法によって、装置由来のノイズの比率が3.4倍になったなどというのは、相当におバカな判断である。この場合は素直に、装置由来のノイズを6分の1以下に減らすことができたと評価するべきである。

 こういう風に落ち着いて考えれば良いのだが、「〇〇をする人はしない人よりもXXになる人の率が上昇する」式の安易な議論に騙される人は後を絶たないようである。