地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

タンパク3000の徒花の陰に隠れて

この3月で終了した文科省の「タンパク3000」プロジェクトを
中村桂子(敬称略、以下他の人も同様)が朝日新聞で批判してから
いくつかのブログで取り上げられたりして話題になっているようだ。
自分はタンパク3000からの金を研究費としても賃金としても
その他いかなる形でも受け取っていないので、
インサイダーではないが、周辺人として全くの部外者でもない。

タンパク3000の成果そのものの批判に関しては
ここでは書かないことにして、
その陰に隠れてしまって他の人があまり触れていない事を指摘したい。
それは一昨年歴史を閉じた「生物分子工学研究所」(略称BERI)のことである。

生物分子工学研究所は当初、通産省(当時)の肝入りで
産業界の出資を募って「蛋白質工学研究所」(PERI)として出発し
科学的に大きな成果を上げ国際的な評価も高い研究機関であった。
特に森川耿右(こうすけ)率いるX線構造解析の研究グループは
日本のタンパク質構造解析で最もアクティブなグループの一つだった。
BERIの閉鎖が決まった時には、Natureに
「基礎研究への興味喪失から破滅させられた研究所」という記事が出ていたが、
http://www.nature.com/nature/journal/v430/n6997/full/430282a.html
同記事の中でのタンパク3000の網羅的解析のリーダー横山茂之の
「日本のタンパク質構造解析をリードした」との評価を見て欲しい。
ところがその頃もそして今も、
国内の反応は極めて小さなものでしかない。
実際、BERI閉鎖に関する日本語記事をネットで探して見ても
残念ながら見つけることができなかった。

タンパク3000と比べればBERIは、
決して大きくはないプロジェクトかもしれないが
国際的な評価は決して見劣りするものではない。
それどころかタンパク質の構造解析を
ナショナルプロジェクトとして大々的にやるのなら
拠点機関として集中的に資金を投下すべき対象だったはずだ。
BERIは工場的な大量生産には向かないかもしれないが
タンパク質の構造からしっかりした情報を引き出すと言う
個別的な解析プログラムには相応しかったと思う。
ところがBERIは経産省系列ということもあってか、
文科省のタンパク3000からはまとまった支援を受けることはなかった。

タンパク3000の総括も必要だろうが、
BERIの悲劇を放置したままにして、
日本の科学の振興を議論するのは片手落ちと言わざるを得ない。