地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

タンパク3000について

周辺人から見たバイアスありまくりの批評になってしまう部分があるが、
行きがかり上、避けては通れないと思うので、
タンパク3000についての自分なりの評価を書こうと思う。
(今回は全員の敬称を「さん」とする)

ぱっと目には、タンパク3000プロジェクトというのは、
タンパク質のフォールディングパターン(基本的な構造)を
10,000種類位と推測してその3分の1である3,000種類の新規な立体構造を解けば
生命科学分野での日本の遅れを挽回できるとか、
そういう思惑から始まったトップダウン型に見える。
確かに、ヒトゲノム・プロジェクトでの日本の貢献が少なめで
生命科学分野での立ち遅れが顕になったという反省(?)から
慌てた文科省とか科学技術行政サイドの暴走したとかそういう説明も良く見掛ける。

しかし、実際は倉光さんたちによるボトムアップ型の
「ストラクチュローム連携研究」というのが先行してあった。
やはりボトムアップ型の産学連携プロジェクトだった
「坂部プロジェクト」の機関誌「構造生物」に
倉光さんが書いた文章があるので見て欲しい(記事は1999年)。
http://www.sbsp.jp/sbsp/Sb/sb52/016.html
(今ではストラクチュロームとタンパク3000の関係は曖昧になってしまっている)

ストラクチュロームが始まった頃の予想では
タンパク質の基本立体構造は精々1000種類くらいではないかと考えれていたが
タンパク3000の始まる2002年頃には10,000種類に上方修正されたので
3000種類のフォールディングパターンの解析が目標になった。
実際、プロジェクトの概要を書いた公式サイトの説明でも
「主要と思われるタンパク質の1/3(約3000種)以上の基本構造及びその機能を解析するとともに、成果の特許化まで視野に入れた研究開発を推進します」
となっている。
http://www.mext-life.jp/protein/p3000/project/outline.html

ところがタンパク3000が開始して間もない頃から
新規のフォールディングパターン3000種類は
とてもじゃないが無理そうということからなのか
フォールディングの新規性は問わないで
とにかく3000種類の構造を出すというようにハードルが下げられた。
(詳しい経緯はインサイダーではないので知らない)
Natureの批判記事"'Big science' protein project under fire"
http://www.nature.com/nature/journal/v443/n7110/full/443382a.html
の中の甲斐荘さんの「その多くがクズ」という発言は
そのことに対する批判を含んでいると考えるべきだと思う。
それに対する横山さんの反論で
http://www.nature.com/nature/journal/v445/n7123/full/445021a.html
2500個の構造を解いたとか
ヒトやマウスの疾患関連タンパクなどを含んでいるとか
そういう趣旨のことを言っているのは、噛み合っていないと思う。

ただ、横山さんの肩を持つわけではないが、
2500の立体構造の中に同一タンパク質の
種々の変異体や種々の基質複合体の構造があっても
それはすごい構造情報の宝庫だとは思う。
なぜならタンパク質の機能について議論する上では
非常に良く似た構造の細かい差異に注目しなければならないことが多いし、
むしろ分子・原子レベルの構造情報が有効に活用できるのは
そういう細かい差異に基づいたタンパク質機能に関する研究だと思うからだ。

だから、タンパク3000の成果は生かし方次第で捨てたものではないと思うけれど
当初掲げた目標に対して十分な成果を挙げたと胸を張るのは難しいと思う。

文部科学省の目標に含まれていた「ゲノム創薬の実現」については別の機会に論じたいと思う。