地獄のハイウェイ

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分子生物学会のカミングアウト

 分子生物学会が阪大の杉野明雄元教授による論文捏造に関して、「論文調査ワーキンググループ報告書」なるものを公表した。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/mbsj/admins/ethics_and_edu/doc/WG_rep_and_ikensho.pdf

 論文捏造に関する報告ではあるが、本題以外で気のついた点があるので取り上げたいと思う。それは報告書3ページの「研究者社会への提言」の中の

「しかし、大学院の重点化で学生の資質が相対的に低下し、自立を促すような教育が以前より難しくなっていること、および最終的な学位審査が甘くなっていることが懸念される。(中略)今一度、単に研究成果だけを求めるのではなく、自立心のある若手研究者の育成を可能とし、相互批判できる研究者社会の再構築を考えるべき時期にあるのではないだろうか。」

といった文章である。
 ここには「学生の資質が低下」「学位審査が甘くなっている」とはっきりと書いてあるし、自立した若手研究者の育成が、実際にはほとんど行われていないこともカミングアウトされている。
 他の分野はともかく少なくとも分子生物学分野では、昨今の博士号取得者の質があまり高くないことを学会の報告書が表明しているわけだ。確かにこれまでも「最近の博士の質は高くない」ことは非公式には色々言われてきたが、公に向けた報告ではっきりと書いてあるのは珍しいのではないか。

 非常に悲しいことだが、ポスドク問題で量的にはかなりの部分をしめる分子生物学系は、甘い学位審査を通った自立できていない研究者であるとして対策を考えなくてはならないということなのだろうか。