地獄のハイウェイ

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ES細胞研究で国際競争に負けたら本当に困るのか?

オバマ政権のヒトES細胞研究助成の解禁後に、
「このままでは国際競争に負けてしまう」というような言説が
マスコミの一部から出てきているようだ。
(3月11日付毎日新聞社説、3月21日付読売新聞社説等)
研究者が国際競争に負けたくないのは当然だとしても、
負けてはならない理由というのが、
日本の社会にとって本当にあるのだろうか?

読売の社説では、
「画期的な治療法や薬剤が海外で開発された時、日本は高額の費用を払って利用せざるを得なくなる。」
というが、
これは実態がはっきりしない中で不安を煽っているだけではないだろうか?
今のところ日本では治療法は特許として認められていないから
海外で開発された治療法を国内で使用しても特許料を払う必要はない。
また、医薬品の方は特許の対象になるけれども、
国内の企業だろうと海外の企業だろうと開発に掛けた費用を回収するために
それを価格に転嫁するのは当然なのだから、
国内の企業が開発したら日本国民の払う医療費が特別安くなるとは思えない。
日本発の医薬品でないと困るのは日本の製薬企業であって日本の国民医療ではない。

もちろん国内産業の保護は産業政策としては理解できなくはないが、
国内の製薬企業だって海外展開の中で、
武田薬品工業などの大手は海外のベンチャーなどを買い付けているし
組んでいるのは国内の研究者だけではない。
国内の研究者だって知財の買い手を国内の企業に限っているわけではない。

ES細胞研究で国際競争に負けたら場合にどのくらいの経済的損失が発生するかについて
定量的な予測が示されないと国際競争云々といっても説得力に欠けているのではないか。
確かに日本のバイオ産業はアメリカの後塵を拝しているかもしれないが、
その肝心のアメリカだって「バイオ産業は成功していない」とも言われている。
(G.P.ピサノ「サイエンス・ビジネスの挑戦-バイオ産業の失敗の本質を検証する」日経BP社)
ES細胞研究から画期的な治療が生まれるならば喜ばしいことだと思うし、
日本人がそれに貢献すれば素晴らしいことだと思うが、
それに日本が貢献できなかったときに本当に困るのかどうかについては
少し冷静になって考えてみても良いのではないかとも思う。