地獄のハイウェイ

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Difficult to cure

日本学術会議基礎医学委員会が
「生命系における博士研究員(ポスドク)並びに任期制助教及び任期制助手等の現状と問題」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t135-1.pdf
という提言をまとめたようだ。
提言というものの、35ページの本文の内提言は最後の1ページだけで、
実質は基礎生物学委員会と共同で行った
生命系のポスドク等に対するアンケート調査をまとめただけのもの。
生命系のポスドク等の約40%の年収(税込)が、
民間の平均406万円を下回る400万円以下であるとかの
労働条件の劣悪さの指摘など調査結果はそれなりに意味があると思うが、

ポスドク等の待遇面での一定の基準を国策として定めるとともに、将来のキャリアパスに繋がるトレーニングを十分行う機会をつくること」

というような寝惚けた提言を見ると、つける薬がないと思う。
以前にもとりあげた 生化学若い研究者の会の「ポスドク問題の解決:後編 理工系教育の見直し」http://www.seikawakate.org/archives/777
で指摘されているような、
「企業研究者には高い専門能力も重要であるが,それ以上に,スキルチェンジにたえられる理工系人材としての汎用性の高さが必要なのである.このとき役に立つのが,学生時代に学んだ理工系基礎学力だ.ところが,とりわけバイオ系博士はそれらの知識が十分ではなく,スキルチェンジに対応することがむずかしい.」
というような当事者の真摯な分析と比べるとレベルが低い。

「企業等でのインターンシップを促進するために企業側にも税制の優遇措置等を行うとともに、ポスドク等を一定の割合で雇用するよう奨励すること」

といような提言を見ると本当に情けなくなってくる。
生命系のポスドク経験者を専門家として雇おうとするバイオ系産業というのが
工学系等の分野と比べて圧倒的に産業規模が小さいという現実が見えているのか?
バイオ系産業の規模については以前にも書いたことがあるので繰り返さないが、
産業規模のはるかに大きい分野でもポスドク等の就職に困難があるのに
他と比べて産業規模の小さなバイオ分野に、
他よりも圧倒的に多数のポスドクが集中していることが異常なのだ。


提言では
「その社会構造上の問題の一端は行政による大学院重点化とポスドクター等一万人支援計画にあったことは否めない」
とか言っているが、他の分野と比べて生命系が飛び抜けて事態が悪いのは
単に行政の責任ではなく、
生命系のアカデミアが突出してポスドク等を生み出してきたことの方に、
本当の責任があるのではなかろうか。