地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

覚えています

自分が学生時代に太田朋子・遺伝研名誉教授に、
身の程知らずの質問をしたことを少し書いたが
その時にした質問の一つが、

分子時計に見られるように分子レベルでは、ほぼ一定速度で進化するのに対して、
 断続平衡説で言われているように表現型レベルでは進化速度は大きく変動しているように見える。
 中立説では表現型の進化の問題をどのように考えられますか?」

といった内容のものだった。
(もちろん20年以上も前のことなので言葉遣いの細部は正確ではない)
念のために書いておくと、
分子レベルの進化速度の一定性すなわち分子時計の存在というのは、
中立説論争では中立説側の論拠の一つだったし、
(当時は分子時計が成立しない例で中立説に反論するというのがまだ結構見掛けられた)
一方、断続平衡説は中立説とほぼ似たような時期に古生物学から出てきた議論だ。

だから「分子進化のほぼ中立説」の126ページに

こうなる以前、私がある学会で分子進化の中立説について講演を行った時、学生の1人が「表現型と中立説の関係をどう考えるのですか」と質問した。私は「個体発生の過程について、分子レベルの知見が得られるまで待ちましょう」と答えたことを覚えている。

と書いてあるのを見て、思わず胸が熱くなった。

自分と似たような疑問を持っていた学生は少なくなかったと思うので、
太田名誉教授が書いておられる学生は自分のことではないのかもしれないが、
質問を覚えていただけたことは本当に幸福なことだと思う。