地獄のハイウェイ

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斎藤成也「ダーウィン入門」感想

ちくま新書の斎藤成也「ダーウィン入門」を読んだ。
著者は日本進化学会設立発起人というか中心人物の一人で、
現在は会長(2010-2011年)を務める、
日本を代表する進化生物学者の一人だ。

これまで出版されたダーウィン紹介本の多くは、
いささか贔屓の引き倒し気味のものが多いが、
ガチガチの中立進化論者を名乗る著者による
ダーウィン礼賛からは距離を置いた解説になっている。

例えば、ダーウィンとウォレスの独創とされることの多い自然淘汰に関しても
負の淘汰(不利な変異の除去)は、それ以前に自然神学で考察されていたと
さりげなくではあるが正しく指摘している。
またダーウィン自身がオリジナリティを重視した
分岐の原理については直接は言及していないが
「現代進化学の視点からすれば、ほとんど生じることのない同所的種分化(同一の生息域で種分化が生じること)を仮定しているという誤りを、ダーウィンは犯している。」

と非常に手厳しい評価である。

本書の後半3分の1ほどはダーウィン後の進化学の発展の話題。
著者が分子進化分野ということもあって、
遺伝学の成立やその後の中立説の成立については詳しい。
ただ行動生物学でもてはやされている様な考え方には冷淡で
社会生物学についてはわずかに2頁余りしか触れていないし、
近年発展した進化発生学(エボデボ)にも全く触れていない。

著者は中立説確立の時期の論争の構図を引きずり過ぎていて、
淘汰説vs.中立説という対立軸の設定にしても
淘汰説批判にしても勇み足の気味がないではない。
しかしネット上で見かける「進化論といえばドーキンス」的理解の人達に
個人的には正直ウンザリしているところもあって、
本書を痛快に感じたのも確かだ。
これまで行動生物学寄りの進化論解説本に馴染んできた人には
ちょっとショックだろうが読んで損はしないのではないだろうか。


 ※分岐の原理を同所的種分化の説明原理と考えるべきであることについては、
  以下の記事を参照して欲しい。

       https://katsuya-440.hatenablog.com/entry/62224167
       https://katsuya-440.hatenablog.com/entry/62328549