地獄のハイウェイ

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バイオ分野に優秀な人材を集中しない方が良いかもしれない

製薬業界において「2010年問題」と呼ばれる問題があることは、
ご存知の方も多いだろう。
これは2010年前後に大手メーカーの主力製品の特許切れが集中するために、
製薬メーカーの経営が苦しくなるかもしれないという話だ。
大型新薬が生まれにくくなっているとか、そういう話も良く聞く。
製薬メーカーが大型合併を繰り返してメガファーマが誕生したのも、
増加する一方の新薬の研究開発費に対応するためだということらしい。

製薬メーカー自身が生き延びるために「優秀な人材」を集めるのは
それはそれで自然なことだとは思うが、
それで他の分野で活躍すべき「優秀な人材」が吸収されてしまうのは、
社会にとって果たして良いことかどうかは自明ではない。
(もちろん分野によって要求される「優秀さ」が同じとは限らない)

経済学に「収穫逓減」あるいは「規模の不経済」という言葉がある。
「収穫逓減」とは要するに、
資金・労働力等のインプットの増分に対して、
アウトプットである生産・収穫の増分が頭打ちになることだ。

製薬業界では研究開発費の高騰が示すように、
インプットの増分に比してアウトプットの増分が減少しており、
「収穫逓減」が起きていると考えるべきなのだろう。
実際、そういう分析もある。
http://mba.kobe-u.ac.jp/life/thesis/workingpaper/2008/WP2008-22.pdf

製薬業界の研究開発において「収穫逓減」が生じているとすると、
そこに人材を投入してもアウトプットの増加は微々たるもので、
同じだけの人的資源を成長期にあるような他の産業に投入した方が、
経済成長の観点からは効率が良いという事になる。

伝統的な薬学部はもとよりバイオ系の学部の大部分では、
産業界として念頭にあるのは製薬産業が中心だろう。
そういうバイオ系学部を、
まだ成長期にあると思われる他の業種(例えばIT産業)向きに転換し、
バイオ系に優秀な人材を集中しないように誘導することが、
科学技術立国を目指すためには必要なのかもしれない。