地獄のハイウェイ

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医師や弁護士に相当するのは博士ではなく技術士だろう

医師や弁護士が担っているような、
個別の問題について市民が相談する専門家という
パーソナルな科学コミュニケーションの担い手について、
榎木英介さんが書いておられる。
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20110725/p1

「医療や法律だけでなく、科学技術に関しても、自分たちが切実に関わる問題に対して知りたいという要求を、専門的な立場から支える専門家が必要ではないかと思う。」

この考えには基本的に賛成だし、
サイエンス・ショップがその仕掛けだということも、全くその通りだと同意する。
とは言うものの、

「しかし、この数十年でたくさん輩出された博士号取得者や修士号取得者などは、パーソナルな専門家として活躍できる素地はあるのではないか。
(中略)
自宅に科学事務所を開設した博士が街にいる、そんな未来を見てみたい。」


といった博士を医師や弁護士になぞらえる発想には
ちょっと疑問を感じる。
医療や法律といった分野で理学・工学分野での博士に対応するのは
医学博士/博士(医学)とか法学博士/博士(医学)とかではないだろうか。

こういった博士は基本的には学術的な研究者であって、
医師や弁護士といった専門的資格を持った実務家ではない。
医師や弁護士に相当するような科学技術についての専門的な実務家というのなら、
国家資格である技術士ということになるのではないだろうか。

技術士という国家資格の世間の知名度は今一つのようにも思うが、
技術士法によれば
「科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者」
というプロフェッショナルな資格である。

これまで技術士の業務の中心は、
企業等の事業者側を対象としたコンサルティング等にあり、
市民とか地域住民との関係が必ずしも密接とは言い難かったために、
科学コミュニケーションの担い手としては
ほとんど注目されてこなかったように思われる。
しかしながら一部のNPO法人などで
技術士が市民対象の活動を行っているものもある。
(例えば「CO2バンク推進機構」http://www.co2bank.org/
どうして科学コミュニケーション業界では、
純粋の学術界(科学者コミュニティ)からの発想ばかりで、
こういう既存のコンサルタント資格を軽視するのだろう?

ただ技術士と理学・工学分野の博士の間には
これまでこれといった関連付けがないのも事実だ。
そのあたりは制度自体を改善していくべきだと思う。
これについては稿を改めて論じたい。