地獄のハイウェイ

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適材適所ならバイオ系は工学系技術者に相応しいとは言えない

榎木英介「博士漂流時代」を読んだ。
内容に関しては自分がこれまで言ってきた論点と共通するものも多く、
特に異論を言うべきことは、ほとんどないのだが、
あえてはっきり言っておいた方が良いと思ったことが一つだけある。
それは第4章の「博士は使わないと損!」の中で
博士が活躍できる可能性として挙げられている技術者の道についてだが、
バイオ系の博士の多くはそのままでは工学系の技術者に適していない。

分野による差もあるし、個人によって経歴や能力が違うから、
もちろん例外もあるのだが、
バイオ系の博士の多くは、
機械設計、電気回路、材料加工といった工学系の専門基礎の知識について
工学系の4年制大卒者と比べてかなり劣っている。
そして何よりも自分から見て問題だと思われるのは、
現象について物理学や数学の概念を用いて表現する十分な能力がある博士は
決して多いとは言えないことだ。
率直に言ってSPring-8やPFといった放射光を使う構造生物学のような
比較的ハードな装置を使う分野であっても状況は決して芳しくない。
(もちろんそういうことができる例外的な人はいる)
物理や数学の概念は言わば科学の世界における共通言語なので
それを駆使できないと高度な専門知識を持った人材とみなすことは難しい。
このギャップを短期間のリカレント教育で埋める事は正直言って絶望的だ。

まじめに取り組めば理学部や農学部のバイオ系の博士でも、
4~5年もすればそれなりの水準に達することは可能だと思うが、
それは高校生が学部や修士を修了に要する時間とあまり違わない。
つまり大学を出直すくらいの労力や時間が掛かるのだ。
どうせ大学を出直すのなら専門基礎知識の共通性のある
医学や薬学といった保健系の方がバイオ系に向いている。
工学系の技術者よりも医者やコメディカルの方が適切だろう。