地獄のハイウェイ

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超光速ニュートリノの話題に寄せて-基本理論と近似

 ミューニュートリノで超光速が観測されたとされるOPERA実験の話題は、読売新聞のような一般紙でも第一面を飾り、世間でも広く関心を持たれていることがよく判る。
 2007年にも米フェルミ研のMINOS実験でも精度は劣るものの似たような報告があったそうなので、実験屋的な個人の山勘では、ニュートリノのエネルギーと速度の関係なんかが焦点になりそうに思う(17GeVと28.1GeVの比較では差が認められなかったようだがオーダー変えて検証すべき)

 ところで、一部マスコミのタイムマシン云々のようなSFチックなネタの振り方に、お怒りの物理学者も少なくないようだが、金儲けにほとんど繋がりそうにない話題が世の注目を集めた訳で、素人と「科学コミュニケーション」するまたとない機会なのだから、むしろそれに上手いこと乗っかったら良いのにと思う。

 それはさておき、報道内容を見た範囲では、世間的なインパクトの中心はタイムマシン云々ではなく、特殊相対論が覆されるかもしれないという話であるように思われる。曰く「物理学の基本理論が書き換えられる可能性がある」ということだ。

 自分は科学哲学でいうところの悲観的帰納論者なので「現象的なレベルで成功した科学理論も将来誤りであることが判明するだろう」という推測を当然と思っているので、もしも相対性理論が書き換えられたとしても決して驚かない。
 しかし、もしも相対性理論が基本理論であることをやめて、ニュートン力学のようなある範囲での良い近似になると、凄く大きな変化であることも良く判る。

 近似法則であればそれが成り立たない例外というものが可能なので、「○○のような現象は理論的にありえない」式の議論に使えなくなるのだ。今回話題の超光速ニュートリノの場合でも典型的だが、基本理論であれば「そんなものはあり得ない」と言えるのに、近似であればそのような不可能性の主張はできなくなるのだ。
 例えばボイル=シャルルの法則を根拠に、実在気体の存在を否定することはできないのだ。それでもボイル=シャルルの法則が役に立つように、もしも相対性理論が基本理論でなくなっても有用であり続けるだろう。
 しかし、新しい基本理論が確立されればそれを根拠に、タイムマシンの可能性を否定することはできるかもしれないが、相対性理論を根拠に否定することはできなくなるだろう。