地獄のハイウェイ

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漢方医学が科学でないと思う理由

最初に断わっておくが、
漢方薬の一部にはきちんとした薬理作用があって
それを治療に役立てることはできると考えている。
しかし漢方薬の有効成分の薬理作用の研究などは
天然物化学と薬学の学際領域である生薬学に属し、
治療体系としての漢方医学とは全く異なる学問の領域である。
漢方医学というのは患者をその体系の基準で判断して診断して
それに対して処方をする知識と技術の体系のことなのだ。
だから漢方医学に基づかない近代医学の診断に基づいて
漢方薬を処方するのは漢方医学の医療行為ではない。
例えば咳が出たときに小青竜湯を出すというだけでは
漢方薬で治療したことになっても漢方医学で治療したことにはならない。
咳が出ている状態を細菌感染症である百日咳と診断して
マクロライド系抗生剤と併用して小青竜湯を鎮咳剤として出すのなら
それは漢方薬を西洋医学の薬として出していることになるのだ。
漢方医学には細菌感染症という概念はない。
そういう概念は近代医学から輸入しなければ使えないし
そのような感染症概念あるいは遺伝疾患のような概念を
体系に整合的に組み入れた知識体系を漢方医学と言えるのか?
虚実寒熱のような漢方医学的な診断基準で
マイコプラズマ肺炎と百日咳を識別できるのか?
ワクチンを接種された者とそうでない者を
漢方医学の体質に関する概念で如何に記述できるのか?
西洋医学の概念は漢方医学の概念に翻訳できないから両者は共約不可能なので
比較することには合理性がないとか言って
漢方医学の擁護を試みるケースもあるようだが、
百日咳ワクチンを接種された者とそうでない者の
百日咳患者に接触させた場合の相違を漢方医学で説明できるのか?
咳が出るようになる者とそうでない者の識別には
日常的な生活知識のレベルで判断が可能で近代医学の概念は不要だ。
こういうテストをクリアできないようであれば
経験科学としてのテストには合格していないということになるだろう。
だから診断・治療の知識としての漢方医学を科学とみなすことはできないと思う。