地獄のハイウェイ

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結晶学者は太陽電池の夢を見るか?

 結晶学という学問のジャンルがある*1。主としてX線や電子線の回折を利用して結晶性物質の構造について実験的に研究する分野で、固体物理や物質科学からタンパク質といった生体分子の構造決定まで広い分野で基礎的な役割を果たしているため関連する研究者も多いが、自ら「結晶学者」と名乗る専門的な研究者*2とその学会も存在する。当然、物理系と生物系では、対象や手法に大きな差があり、それぞれサブジャンルをなしている。

 実は生物系の結晶学者が、半導体とか電池材料分野とかの結晶学を専門としない他の分野の研究者と比べて、固体構造やその決定方法について詳しいかというと決してそうではないのである。例えば代表的な無機構造であるペロブスカイト構造*3をさっと説明できる生物系の結晶学者は滅多にいない。さっと説明できないだけではなく、材料科学の研究者が合成したペロブスカイト型の新物質の構造解析を手伝うことも難しい。はっきり言って生物学系の結晶学者は、固体化学に関しては素人である。それが良いとか悪いとかいうのではなく、専門家は自分の専門の外については素人であるということの例に過ぎない*4

 これまでも何度か書いているが、科学研究者のような専門家といえども専門外のことでは素人である。外部から見たら当該分野の専門家集団に属するように見えても、隣接分野の研究者の方が当てになることも珍しくないのである。

*1:結晶学の紹介については世界結晶年(2014)のパンフレットが良いと思う。

*2:専門的な結晶学者を名乗る研究者に「ダーウィンの理論を説明してください」と言った際に「動力学は専門でないので...」とかの返事が返ってきたら、本物の結晶学者と思って間違いない。というのは動力学的回折理論の開拓者の一人が、C.G.ダーウィン(Charles Galton Darwin、進化論のダーウィンの孫)だから。

*3:ペロブスカイト構造については、次のサイトが詳しい。

solid-mater.com

*4:『歴史における科学』(1954)で知られているJ.D.バナールのように結晶学者が専門外の分野で色々と著作を出して一定の評価を受けた例はある。