地獄のハイウェイ

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「フィンチの嘴」を読んで、あるいは我等の時代の進化論

J.ワイナー「フィンチの嘴-ガラパゴスで起きている種の変貌」(ハヤカワ文庫NF)を読んだ。
ガラパゴス諸島のダフネ島を中心にグラント夫妻によって行われた
ダーウィンフィンチの自然選択に関する実証的な研究を紹介したもの。
丹念で息の長い調査によって
気候の変動に応じてフィンチが現在も進化し続けていることが
明らかにされるのは物凄くエキサイティングだ。
性選択や交雑の話題にも触れているが予備知識を余り要求されず
非常に読みやすく面白かった。
個人的に印象的だったのはフィンチ研究チームにいたP.ボアグが
分子生物学に転向しDNAレベルの進化研究と結びつけているという点。
フィールド研究と分子生物学の融合というのは
それぞれの文化がかなり違うため難しいと思うが
そういう方向の研究がちょっと前から進みだしていると思うと
観客としては期待をせずにはいられない。

ところで日本で進化論関係で有名どころといえば
「パンダの親指」や「ワンダフル・ライフ」のS.J.グールドや
「ブラインド・ウォッチメイカー」や「利己的な遺伝子」のR.ドーキンスあたりだろう。
海外でも似たような感じなのか
K.ステルレルニー「ドーキンス VS グールド 」(ちくま学芸文庫
A.ブラウン「ダーウィン・ウォーズ」(青土社)といったところでは
ドーキンス派vs.グールド派といった対立図式で「現代の進化論」が語られている。
しかしそういう観念的論争とは無縁のグラント夫妻の地道な実証研究こそが
科学の本道のような気がする。

蛇足だがグールド(専門は古生物学)もドーキンス(専門は動物行動学)も
分子生物学やゲノム研究に対しては、
ちょっとそっぽを向いているような印象を持っている。