報道によると、
神戸大学工学部の大前伸夫教授が出願した、
ダイヤモンドを利用した鉄切断工具に関する特許で、
実際には実験していないデータが記載されていたことがわかり、
大学側の指導で出願が取り下げられたそうだ。
特許は自然現象の報告のためではなく発明(アイデア)の権利確保のためにあるので
実施例がいい加減であったり予測であっても通常は問題ないとされている。
よく知っている人には言わずもがなであるが、
特許は出願だけで成立するのでは無く出願審査を請求して、
そして認められなければ特許にならない。
ところが出願されても出願審査が請求される特許はかなり少ない。
特許には維持を含めてそれなりに費用が掛かるから
儲かるの見込みが無ければ出願審査をしないというのもあるが、
かなりの部分がライバル(同業他社等)の特許取得を阻止するために
発明(つまりアイデア)を公開することだけを目的にした
いわゆる「防衛出願」だからだと言われている。
そうしないとライバルなどに特許を取られてしまい
最悪そのアイデア(発明)を利用することすら出来なくなってしまうからである。
(特許は排他的に独占することのできる権利である)
日本やほとんどの国(例外はアメリカ)「先出願主義」なので
先に出願した者に特許を認めることになっているため、
ライバルも思いつきそうなアイデアなら
「先手を打ってとりあえず出願しろ」ということになる。
神戸大学のケースでもこのような観点から検討する必要がある。
仮にそのアイデアを利用した研究に助成を受けようというなら
少々勇み足でも出願しておかないと拙いという判断になりがちだろう。
国立大学法人化でやたら「知財戦略」なる言葉が独り歩きし
「特許で儲ける」話ばかり喧伝されがちだが
発明を自分で権利化するばかりでなく
他者の権利化を阻止するという観点が必要なはずだ。
今後明らかにされるであろう詳細を見て判断したいが、
今回の件を一連の「論文捏造」と単純に同列視することは避けるべきだ。
★トラックバック先の記事
本記事は
Makkurikuriさんのブログサイト「ある大学研究者の悩み」
2006年04月28日付エントリ「特許のデータ」
http://makkuri.exblog.jp/3540685
及び
chem@uのさんのブログサイト「ケミストの日常」
2006年05月02日付エントリ「神戸大特許捏造の件」
http://blog.goo.ne.jp/chemist_at_univ/e/adb5b1de43d43f7d5a23ffcabedf1dbc
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★2006年05月06日追記
この件に関しては、chem@uのさんのブログサイト「ケミストの日常」
2006年05月03日付エントリ「神戸大特許捏造の件・続2」
http://blog.goo.ne.jp/chemist_at_univ/e/d7ebd2b6d284f372746cf0cb9f7e3808
に問題の特許の発明者に関する興味深い分析があります。
発明者の一人である神戸大学産学官民連携推進部門長・中井哲男教授との関係が
非常に深いようです。
中井教授ではなく大前教授が槍玉に挙げられているところに
今回の事件の本質が見え隠れするように思うのは下衆の勘繰りでしょうか。