地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

村松秀「論文捏造」を読んで

村松秀「論文捏造」(中公新書ラクレ)読んだ。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4121502264/
ヤン・ヘンドリック・シェーンの論文捏造事件(ベル研シェーン事件)を
追ったTV番組を基に書籍化されたもので中々興味深かった。

良く取材されていると思ったが、
研究者コミュニティーが科学の変質に対応できていないことが
論文捏造のような研究不正の増加に繋がっているという
著者の見立てには必ずしも賛成ではない。

研究不正は科学が国家や産業と結びつきを強める前からある。
例えば、物理学ではデータ捏造などは少ないのかもしれないが、
理論的予測に都合の悪い実験データを除外して発表するなどは
古くはニュートンから始まり
有名なところではミリカンの電気素量の実験の話もある。
また村松が、職業研究者によらない牧歌的時代の象徴として挙げているメンデルも、
あまりにもきれいで確率論的に信じがたいデータを出していることで有名だ。

村松もシェーンに関して自分自身で信じ込んでいた可能性を示唆しているが、
悪意をもって騙そうとしなくても
自己催眠を掛けたかのように自分の嘘を信じてしまうケースもある。
そこまで行かなくても
自分の理論に確信を持ち過ぎて
都合の良いデータだけを受け入れてしまうのは誰でも陥りやすいことだ。
(シェーンの共著者であり上司(チームリーダー)であったバトログもそうだろう)

自分は古くから科学に捏造はある程度の頻度で発生していたと考えている。
ただ昔は研究者コミュニティーが今よりずっと小さかったから
頻度が同じでも捏造の発生件数自体が小さかったことと
国家や産業との結びつきが弱かったので、
社会的大問題になることがなかったのだと思う。
村松と違って科学が巨大化したために捏造が増えたのではなく
科学の巨大化で捏造の影響が大きくなったのだと思うのだ。