地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

プロセスとしての科学

先日に続き、essaさんのサイト「アンカテ(Uncategorizable Blog) 」の
「科学とは結論と権威の供給元なのかそこに至るプロセスなのか」と言う記事を読んだ。
http://d.hatena.ne.jp/essa/20070416/p1
まず自分は「科学はプロセス」という考え方に立っている。
科学的な判断はプロセスが公開されているからこそ、
その結果を受容することができるのだ。
それがなければただの御託宣と一緒で
科学に特有な信頼性などあり得ない。

問題になっている「ためしてガッテン」の実験そのものの位置づけについては
「検証実験」ではなく「演示実験」(デモンストレーション)だと思う。
自分自身は番組を見たわけではないのだが、
報道を見る限りこのような実験は科学的に不適切だろう。
NHK側の元の番組情報や反論のページを見てみたが
http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2006q1/20060118.html
http://www.nhk.or.jp/gatten/news/info20070409.html
「生活改善でアディポネクチンが分泌されること」は
このような実験そのものからは結論することができない。
まず実験群のみで対照群が設定されていないのは根本的な欠陥だ。
さらに被験者4人中1名でアディポネクチンの増加効果が見られたというが
全員で血圧、血糖値、中性脂肪値などでは改善が見られたというのと比べて
効果が弱すぎるので番組でわざわざ効果を強調すべきとも思われない。
被験者の性別・年齢や事前の肥満状況などの情報がないので
実験条件の管理が適切に行われていたとは思えないし
何よりもサンプル数が少なすぎて
期待と逆の結果がでても不思議ではない状況だと思われる。
先行研究でアディポネクチンと体脂肪率とが負の相関を示すことが知られているのなら
その実際の研究のデータを示すだけで十分であって
あえて失敗するかもしれない実験を組む意味が不明である。
実際、誤差と同程度なので微妙だがネガティブな結果がでて週刊現代に叩かれたわけで
演示実験としてのデザインが不適切としか言いようがない。
アディポネクチンの紹介を主目的とする番組ならともかく
心臓病や動脈硬化を防ごうという健康情報の提供が目的なら
あやふやな結果の演示実験を示さない方が適切ではないか。
それともNHKは映像を見せれば、それがいい加減な実験でも
視聴者は納得するとでも思っていたのだろうか。

なお「プロセスとしての科学」は
生物学に関する科学哲学者として有名なD.L.Hullの主著である
"Science as a Process"の直訳でもある。