地獄のハイウェイ

科学・技術や趣味のことなど自由気ままに書き散らしています。

化学は科学?

自分は理学部化学系学科の出身なので、
化学がどういうものかについては無知ではないつもりだ。
それで前々から気になっている疑問の一つが、
科学コミュニケーション業界などで見られる
「日本では科学と技術が区別されていない」
「科学(サイエンス)は何かを知ること、技術は何かを作ること」
といった類の言説において考えられている区分では、
(この区分そのものに対する疑義は別の機会に論じたい)
化学はサイエンスではなく技術に属するのではないかということ。

化学の進歩で重要な発見の多くが
「○○合成法の開発」というような名称であることは
少し化学を勉強すればよく判るはずだ。
例えば昨年のノーベル化学賞クロスカップリングなんかも典型的だ。
新しい合成法の開発というのは
「真理の探求」というよりも人為的な「制作術」ではないだろうか。
もちろん化学の中にも
化学結合の原理の解明」みたいな理論的な分野もあるが、
本流は物理化学よりも合成化学にあるのではないだろうか?
物理化学の価値が少ないと言っているのではなく、
化学というディシプリンの中核は
物質の合成や精製といった自然や人工物の操作であると言っているのだ。
化学(chemistry)は錬金術(alchemy)の末裔であるのだから
歴史的に見れば当然ではないだろうか。
(ここでは化学と錬金術の関係については深入りしない)

もしも化学を科学に分類するのであれば、
一般人の教養において科学と技術を峻別を要求するというのは、
ちょっと無理な注文だと言わざるを得ないと思う。