地獄のハイウェイ

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ポスドク問題と科学技術の進歩

自分自身の興味によるバイアスはあるのだろうが、
いわゆるポスドク問題を話題にしているブログなどは
理学系特にバイオ分野が多いような気がする。

工学系は技術者としての就職がアカデミックポストの3倍程で
http://hakasenoikikata.com/posdoc_report13.html
アカデミックポストの多寡がポスドク問題にとっての主たる因子ではないし、
バイオ分野といっても医師免許が生計の切り札になり得る医学系は別枠だから、
結局ポスドク問題が深刻なのは理学系バイオ分野ということなのだろう。

ところで、ポスドク問題に関しては
ポスドク問題を放置すると博士志望者が減って科学技術の進歩が遅れる」云々
といった意見を見かけることも多いが、
「科学技術の進歩」という言葉が、どうも科学技術立国論というか
産業発展に繋がる面での科学技術の進歩を意味しているような感じがする。
それではポスドク問題が深刻な理学系バイオ分野の研究は
一体どれほど科学技術の進歩に貢献しているのだろう。

経済産業省の「平成17年度 バイオ産業創造基礎調査報告書」によると
http://www.meti.go.jp/policy/bio/BioIndustry-Statistics/17FYBioIndustryStatisticsGaiyo.pdf
平成16年度のバイオ関連の年間出荷額の総計は約7兆6,915億円だったそうだ。
同報告書の図表6を見ると6割強の4兆,6,900億円が食品関連で
医薬品関連の1兆3,843億円(構成比18%)がそれに次ぐ。
(因みにJETROのレポートによると2003年の医薬品生産高は6兆5,331億円
 http://www.jetro.go.jp/jpn/reports/05001008
食品関連のほとんど(構成比99.8%、図表9参照)は
従来型の発酵技術、培養技術等によるものだから
理学系バイオ分野による貢献はあまりというかほとんどなさそうである。
医薬品関連も医学系の研究成果の反映が多いと想像されるから
理学系バイオ分野がどれだけ貢献しているか分からないが、
仮に半分が理学系バイオ分野の貢献だということで考えてみる。
そうすると大体7,000億円弱が理学系バイオ分野の貢献だという試算になる。
(ただしこれはかなりの大甘の試算である)

これは経済規模として見ると決して大きい訳ではなく、
とてもではないが基幹産業として我国の経済を牽引するようなレベルではない。
トヨタ自動車の平成19年度の売り上げが連結で23兆,9,480億円であるのと比べると
http://www.toyota.co.jp/jp/ir/financial_results/2007/year_end/tansin.pdf
その30分の1にも満たない。
DSやWiiで好調だった任天堂の平成19年度の売り上げが連結で9,665億円だから
http://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2007/070426.pdf
ゲーム開発者と理学系バイオ分野の研究者は同程度の寄与というところか。
(余りにも荒っぽい比較だということは理解しているつもりだ)
理学系バイオ分野に限れば、
「博士志望者が減って科学技術の進歩が遅れる」云々は
産業的にはゲーム産業の遅れと同程度(あるいはそれ以下)ということなのだろう。

もちろん工学系は自動車や電機など基幹産業に直接関係しているので
「博士志望者が減って科学技術の進歩が遅れる」論は
経済的にも妥当だと受容れられやすいと思われるから、
「理学系バイオ分野のポスドクは見捨ててでも工学系を救え」といった
極論が出てくることもあるかも知れない。

自分としては「科学技術の進歩」という言葉は
経済・産業的な意味の貢献のみで捉えられるものではなく
文化とか社会資本としてのものを意味して欲しいと思うのだ。